⑫ 彼を探して ~せいらの語り~
森の中を行けど探せど、かみやんは見つからない。
もしかして道に迷ったとか。
そんな気がしてくる。
もう、大人のくせに世話が焼けるんだから。
どこいっちゃったのよ~。
「なにさがしてんだ?」
ふいに後ろから声をかけられて。
いつものスーツ姿じゃない、ジャケットにラフなズボン姿で現れたのは。
「かみやん……?」
あら……。
ほっとするはずなのに。
どうしてこんなに不安なの。
「だ、だいぶ遠くまで来ちゃった。危ないわ。帰りましょう」
踵を返そうとしたとき、がしっと、腕をつかまれる。
今までにない強い力に、戸惑う。
「もう少し、ここにいてくんねーかな」
「……なにいって」
「せいら。お前と一緒にいたいんだよ」
ぎゅっと後ろから抱き寄せられる。
「学校ではこんなことできないだろ」
どうしよう。
これも、抵抗できない力だわ。
「オレのことが好きか」
「かみ……やん」
そんなふうに言われて、否定できるわけない。
彼の顔が近づいてくる。
「だめ……」
顔を背けると、彼は切なそうに瞳を伏せた。
「お前とのこと、ずっと、周りにもひみつにしてきて、何気ない顔してるのが、苦しいんだ。お前をオレだけのものにしたい。一刻も早く」
あ。
一瞬、強い何かに流されそうになる。
ほんのちょっと、それもいいかもと思った。
あたしだって、はやく、あなたのものになりたいって、答えてもいいかも――。
そのとき、危険信号のように、頭の中で声がした。
『毎日顔見れば、つっぱしりすぎてないかわかるだろ』
かみやんはいつも、あたしのことを見てくれていた。
関係をおおっぴらにできないことはいつも、ごめんって言ってたけど。
さいしょに、あたしが疲れてるとか、いらだってるとき、へこんでるときにはじっとそばにいてくれて、こんなふうに急がせたりすることはぜったいしなかった。
ぐっと彼を押しのける。
「かみやんじゃない」
びしっと人差し指をつきつける。
「あなた、誰よ」
彼の口元が、不敵につりあがった。
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