⑪ わたしってちょろい?
キャンプの夜と言えば……。
キャンプファイヤー!
神谷先生とマーティンは、残りの薪を集めに行ってくれてる。
お風呂からあがったわたしたち三人は星崎さんといっしょに、夕ご飯のカレーを作っていた。
野菜をたくさん切って、お肉も用意して、あとはテントのそばの大きなお鍋で煮るだけ。
ここから先のプロセスは、食べる直前でいいよね。
「手伝いありがとう。みんな筋がいいね。いいお嫁さんになるよ」
お鍋を設置しながら星崎さんがそう言ってくれて……きゃっ。
「あ、やっぱり~? あたし的には、もう高校卒業したあたりで、好きなカレにとっとともらってもらおうかなーなーんて思っちゃったりするんですけど」
ももちゃんたら、照れ隠しで言いながらうふふ顔だね。
「いいんじゃない。大学生になるならいっしょに住んでしまえばいいし、社会人であればなおさら」
「そうかなーぁ? もー、王子ったら気が早い~」
ももちゃんが持ち出したんでしょ。
「でも、結婚の前に一緒に住んだりって、どうなのかしら」
ちょっと思案げに言うせいらちゃんの声を聞いて、どきっ。
「えー? せいらってばふっるいなー。そんなのとっくに当たり前の時代だよ」
「でも、少しお手軽なかんじがするっていうか……かんたんな女だと思われたくないじゃない?」
くすり、と星崎さんが笑う声がする。
「せいらちゃんは古風だね。龍介もたいへんだ」
みんなの言うこと。なんとなくわかる気がする。
今読んでる『若きヴェルテルの悩み』で、ヒロインのシャルロッテが主人公のヴェルテルになかなかふりむかなくって。
それは婚約者がいるからなんだけど、文章読んでくと、どことなく、シャルロッテもほんとはヴェルテルが好きなんじゃ? って思えるところがあるんだよね。
それなら、婚約をやめて、ヴェルテルとつきあったらいいって思ったんだけど。
「あぁ、あの話ね」
星崎さんは当然のように知ってるみたい。
「昔の女性はなおさら、ほかの人の思惑とか、いろいろと抱えるものがあって、気持ちのままには行動できないとことも多分にあっただろうね。好きな人に女性から告白するのもはしたないって時代が日本にもあったように」
おしとやかな人は、恋心のままかんたんには動けないんだ。
その理論でいくと。
「わたしって、かんたんな女の子、かな?」
せいらちゃん、ももちゃん、そして星崎さんがえっとわたしを見る。
だって。
大好きな星崎さんと、結婚どころかつきあってるわけでもないのに。
こうして一緒に暮らしてるもんね。
うーんとせいらちゃんは考え考え、
「そう言われると、否定できないかもだわ」
えっ。
やっぱりそうなの?
救いを求めてももちゃんを見るけど、
「うん。実際、目下のところ、星崎王子は夢になんでもしほうだいだからね」
かぁぁっと、顔があつくなる。
本人のいるところで、そういうこと言わないでよ~。
ももちゃんはその後も、ずばり。
「それができる状況をかんたんにつくっちゃってる夢は、たしかにちょっとちょろいと言えるよね」
そこで星崎さんが、
「二人とも、そう夢ちゃんを責めないであげて。違うんだ」
さすがっ。フォローしてくれるのかな。
「夢ちゃんは悪くないんだよ」
うんうん。
「だって、なんでもしほうだいの状況に持っていったのはオレのほうだから」
……。
えぇぇーっ。
さらりと言われた言葉に、わたしだけじゃなく、親友二人も絶句してる。
「驚かせた? でもこんなのはふつうだよ。ももちゃんもせいらちゃんも、優しい顔をした彼に知らないうちに閉じ込められないように用心したほうがいい」
さすがに、二人とも赤くなっちゃって、何も言えない。
「そういえば、その彼たち、遅いね。龍介もマーティンもどこまで行ったのかな」
い、いや星崎さん。ごく自然な流れっぽく言ってるけど、さっきの。
すごい気になるんですけど……。
「あ、あ、あたし、かみやんを探してきますわ!」
「あたしも! マーティン、どこ行った~」
うわ、ずるい!
ももちゃん、せいらちゃん。
二人だけ逃げるなんて~。
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