⑭ 囚われの中で ~マーティンの語り~

 黒いドレスの女性に連れてこられたのは、森の奥深くだった。

 すでに神谷先生が縛られているとなりに、縛り付けられる。

「少年もつかまったか」

 かー情けねーなぁと言う顔には人質らしい緊張感がない。

「い、いつもならこんなことにはなりません。もも叶と話し込んでいたすきをつかれて、つい」

「オレもさ、こんだけ木材集めれば先輩もせいらも文句言わねーだろとか調子に乗ってたら、怪しいやつの攻撃を防ぎきれなくてさ」

 神谷先生の前にいた黒い紳士服の男がそれを遮る。

「無駄口をたたかれてはこまります。こちらにおいでいただいたからには、我々に協力していただかなくては」

 きり、と神谷先生の表情がひきしまる。

「なにが目的だ」

 紳士服の男は白い紙を一枚ずつ僕と神谷先生の前に差し出す。

「恋人に別れの手紙を書いていただきましょう」

「そしたら殺すってか」

「いえ。そのような野蛮なまねはいたしません。永遠に本の中にいていただきますが」

「やだね。あいつのいない未来なんて、つまんなくてしょうがねー」

 ぐっと、神谷先生の目つきが鋭くなる。

「兄さん、さっき広場のほうに行ってたみたいだが、せいらたちになにかしたんじゃねーだろうな」

「あなたを装って、我々の仲間になるよう口説き落とそうとしましたが、なかなか頑固なお嬢さんのようだ。すぐに見破られました」

「け。当たり前だ。そうかんたんにあのせいらが騙せてたまるか」

「えぇ。こちらもいさぎよく撤退し、最終手段をとらせていただくまでです」

 二人の会話のあいだに、僕をここへ連れてきた女性がかがみこんでペンを差し出してくる。優し気な笑顔が不気味だ。

「わたくしの目的は、あなたさまの恋人あてのたったの一文。嫌いになったと、一言で結構です」

「できない。もも叶にはうそをつかない。そう決めてる」

 女性から笑顔が消えた。

「ならば、致し方ないですわね。ジェーブシキン」

「はい、シャルロッテ」

 黒服の女性と紳士が、目線を交わし。

 その手刀を人質の僕らに同時に振り下ろした――。

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