③ このへんでちょっと甘いシーンを

 わたしはじっとっと、ももロックに冷ややかなまなざしを送った。

「……それで、お金ももらったの?」

 ももロックはおまんじゅうをがっつりもちあげて

「ふふん。もち!」

「ももロックったら、ちゃっかりしてるなぁ。それに、毎週土曜日は、マーティンの絵のモデルになる約束してたんでしょ? カレシを少しでも思いやらなかったのっ? もう……。助手の夢ソンは悲しいよ」

 非難するも、ももロックはいっこうにこたえた様子がなく、

「まぁまぁ、最後まで話をきいてよ」


クラウスの部屋から戻ると、マーティンがキャンパスを前に、当然ながらちょっとぷんぷんしていた。

「もも叶。ひどいじゃないか。僕との約束だったのに、あんなやつのところへなんか……」

 あたしは頭の後ろへ手をやりつつ、

「あはは、ごめんごめん。さいきんちょっと副業で探偵業をやってるもんで、それでね」

「探偵業?」

 マーティンはきょとんと眼を見開いて、そして、ぷっと噴出した。

「頭をつかうことがきらいなもも叶が。いったいなんの冗談だ。あはは」

 な。名探偵に向かってなんだこの反応!

「ぷぅぅっ、これでも有名私立探偵なんだよ!」

まだ推理当たったことないけど!

 マーティンはひとしきり笑ってくれたあと、

「まぁ、いいや。何か事情があるんだったら、深くはきかない。きみの好きにするんだ」

 あたしは思わず、きれいにととのった彼の笑顔に見入ってしまう。

 通った鼻筋。透き通った肌。そして。

「信じてるから、いいんだ」

 まじまじと、その澄んできれいな目を見つめて。

こういうとこ大好きとか、思っちゃって。

「……ありがとう。そういうわけでさ、あたししばらく、美人組合につきあわなくっちゃならなくなりそうなんだよね」

 マーティンは苦笑して、肩をすくめ、目の前のキャンパスを見やる。

「でも、弱ったな。そうなると、この絵が……」

「マーティン」

 そのとなりに、そっと並んだ。

「あたしも絵を描くのが好きなの、忘れてない?」

「え、それはもちろん、忘れてなんかいないさ。きみの絵は人を癒やすんだから。でもどうして?」

 ふふっと笑って、すっと、キャンパスのトップを指さす。

「この背景のことなんだけど」

 そしてあたしは二言三言、芸術について言及したのだった。

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