夢もも探偵事務所 事件ファイル3 ~美人組合~

① 名探偵ももロック初の快挙

 芸術は秋でなくても、楽しむに値するものだ。

 夢もも事務所中心にある低いガラステーブルにて、わたしたちは学校の図書館で借りてきた絵画の絵本を広げ、隅々まで深く味わっていた。

「印象派の絵ってきれいだよね。なんど見ても見入っちゃう」

 我が親友ももロックには意外にも、絵画の造詣があるのだ。

「あっ、見て、こっちは、世界各国の月のもようの見え方だって。国によってこんなに違うんだ。ふしぎ~」

 ひとしきり味わい深い世界を味わいつくしたあと、わたしはふいに我に返り、はぁぁとため息をつく。

 ベッドのわきの窓からはほどよい五月の風と太陽の日差しが差し込んでくる。

「ももロック。わたしたち、こんなことしてていいのかな」

「え?」

 管理人の星崎さんが出してくれたお饅頭を口に運ぶ途中でとめ、ももロックが言った。

「だって、このあいだの星崎さんの事件だって、けっきょく本人から真相をきいたんだよ。これまでちゃんと解決できた事件まだないんだし……」

 すると、ももロンはひたいに指先をあて、いかにも敬愛するシャーロックふうのしぐさでよろめくと、

「はっ! 夢ソン!」

 さらにシャーロックを意識した皮肉っぽさで叫んだ。

「ご挨拶だね! この名探偵ももロックに、まだ解決した事件がないと?」 

 そうかと思えば、座椅子にもたれかかってのけぞり、大げさに手をたたく。

「がーっはっは、おもしろい、そのジョーク、おもしろい!」

 シャーロック形無しの豪快さで笑い転げるその姿に、

「ちっともおもしろくないんだけど……」

 つっこんでいると、ぐっと座椅子ごとももロックが身を乗り出した。

「では夢ソン。これからこの名探偵ももロックを名探偵ならしめたある事件について語ってあげるから、助手としてそれを、ルーズリーフに書き留めたまえ」

 言いながらファイリングノートから、一枚、線のかかれた紙をぺらり、こちらによこしてきた。

「えっ。ほんとうに、そんな事件あったの?」

 ふふん、とももロックは、再びおまんじゅうと絵画の絵本をたしなみながら、

「まぁね。夢ソンのいないときにあっさりと解決してしまったことは、とても申し訳なく思ってるけど」

 うーん、どうもほんとうらしい。

 ももロックのことだから、半分妄想の危険もあるけど……。

 わたしはトップにケーキのシンボルのついたお気に入りのシャープペンをとった。

 名探偵である友人の活躍を書き留めるのは、助手の仕事なんだ。

「わかった。拝聴するよ。はじめて」

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