④ 女の子の影
「奥付塾低学年クラス。二年三組の珠入奈智ちゃん、か」
放課後机でももロックが考え深げにつぶやく。
「その子のことが、神谷先生の車のフロント部分のトラと関係があるかはまだわからないけど」
わたしはその続きをためらいながらもひきとった。
「どっちにしろ気になる情報だよね。神谷先生の大ファンなんて……せいらちゃんにはまだ、黙ってたほうがいいかもね」
「うん、異論なし」
うなずきあったわたしたち探偵だったけど。
「あら。低学年クラスの奈智ちゃんのことなら知ってるわよ」
いいっ!?
振り返るとそこにはランドセルを背負ったせいらちゃんがいる。
わたしたち三人帰りはいつも一緒だから、今日もこっちに来てくれてたみたい。
ま、まずい……!
わたしたちの心配をなぞるかのように、せいらちゃんはうつむいて、
「知ってるどころじゃないわよ。……この前彼女のことで、かみやんとけんかしたばっかだもの」
ええっ!
「そ、そんなの! 依頼人としての前に、文学乙女の仲間として、あたしたちに言わなきゃだめじゃんせいら!」
つめよるももロックに、
「まぁね……。もう二週間になるかしら。そのことはあんまり思い出したくなくて、昨日もあえて言わなかったの」
沈黙してしまうわたしたち。
でもここで引き下がれば名探偵助手夢ソンの名がすたるってものだよね!
「せいらちゃん。よかったら、どうしてけんかになっちゃったのか教えて。わたしたち、がんばって調べてみるから」
せいらちゃんはうなずいて、語りだした。
奥付塾では、学年問わずかみやんになついてる子はおおぜいいるけど、小2のおさげの女の子、奈智ちゃんは、とりわけそうなの。強烈っていうか、かみやんを見つけるとどんって頭突きしたり、腕にまとわりついたり、やたら人なつっこい子っているじゃない?
事の発端は自習室でのことなの。
第一自習室は高学年しか使っちゃいけないことになっているんだけど、その日、監督席のかみやんのとなりに奈智ちゃんの姿があったのよ。なんでも家の人が留守とかで、授業が終わったあとも預かることになってたんだとか。そのあいだ二人は楽しそうに、このあいだ奈智ちゃんが動物園に連れて行ってもらった話とか、どんな動物が好きかという話とかをはじめたの。事情はわかるけど、だからって高学年の自習室にまで入れてあげることないんじゃない? 奈智ちゃんがおうちの人にひきとられていったあと、あたしはついそうかみやんに言ったの。そうしたら。
『あの子はまだ小さいんだから、寂しくなっちゃうのはしょーがねーだろ』
とか言うのよ! むかっときちゃって。
『あたしだって寂しい! それなら、かみやんが一番、あたしのこと愛してるって証明して!!』
(ここで、「わぁお」「それで、それで?」というももロックと夢ソンの感嘆)。
そしたら、彼、
『むちゃくちゃなこと言うなよ』
って、困った顔で。
ももロックは心にメモをとるようにじっと話をきくと、用心深くも言った。
「ほかに、気になることは?」
最後のせいらちゃんのこの言葉で、わたしたちは調査2をしめくくった。
「うーん……あ、そうそう。かみやん、手の指に絆創膏たくさん貼ってたから、そのあと、どうしたのって聞いてみたんだけど。気まずかったせいか、なんでもないってちゃんと答えてくれなくて」
いきなり軌道にのりだしたので、わたしとももロックはせいらちゃんと別れてから、帯紙公園で調査を進行することに。
りんごブランコにのりながら、わたしは助手としての見解を述べる。
「これはなんとしてでも、奈智ちゃんに直接あたって調べてみるべきじゃないかな? せいらちゃんから神谷先生を横取りするなんて……ひどい」
「まぁまぁ夢ソン。まだそうと決まったわけじゃあるまい」
ももロックは冷静に言う。
「いきなりうちらが二年生の教室に乗り込んで聴きこんだりしたら目立つし、警戒されちゃうかもしれないでしょ」
うーん、そう言われると、もっともだ。
でも、それじゃどうすれば。
「臨時調査員を雇うっていうのはどうかな」
ん?
首をかしげていると、こほん、と我が親友はわざとらしく咳払いした。
「忘れたかね? 奈智ちゃん――ターゲットはイケメン好きという情報を」
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