⑤ 臨時調査員による待ち伏せ調査
こちら、もも夢探偵事務所、臨時調査員、マーティン・ターラーだ。
ターゲットは珠入奈智というおさげの少女。
奥津塾の前の公園で、塾が早く終わった日は、ぶらんこに揺れると言う情報をもとに、当公園内のシーソーにて待機中。
――!
一人の華美な二つの髪飾りで髪を結んだターゲットらしき人物を、確認。
一人でシーソーの片側にのりじっと動かない僕を、奇異なものを見るまなざしで見つめてくる。
――ふっ、計算通りだ。
ためしに手のひらサイズの黄色いボールを投げ、様子をうかがう。
その子はことことと小さな足でかけより、そのボールをひろっては、嬉しそうな笑い声をあげた。
「わ! このボールトラさんの顔だ!」
無邪気な幼子の笑顔を見てしのびないが、心中でうなだれる。
やはり――僕が立てていた推理どうりの反応だ。
さっそく彼女にかけより、話しかける。
なるべく笑顔を浮かべて。
警戒心をもたせないように。
「トラさんが、好きなのか?」
その子――奈智さんはぱちっと目をしばたたいたあと、丸い頬がへにゃりとするほどの笑顔を浮かべた。
「うん! かっこいいお兄ちゃんはもっと好き!」
そう言って、僕のほうに突進してくる――おっと、人懐っこい子だとはきいていたが、膝にタックルされた頭からは並々ならぬ衝撃が伝わってくる。
「ねぇお兄ちゃん、ガイコクの人?」
「あぁ。そうだよ」
「名前なんてゆーの?」
「マーティン」
彼女は僕の名を発音しようとするが、舌足らずな口では難しいらしく、あきらめてこう言った。
「ねぇ、奈智と結婚しよー」
さすがに面食らったが、今は任務中だ。ここで引き下がるわけにはいかない。
奈智さんと同じ目線までかがむと、僕はすかさずきく。
「神谷先生とは、結婚しなくていいのかな」
「うん。かみやんとも結婚するよー」
なるほど。彼女の中では社会は一妻多夫制らしい。
「結婚は、ほんとうに愛している人とだけするものだ」
諭すようにそう言って、次にかまをかけてみる。
「きみはどんな人と結婚したいんだ?」
すると、彼女は決定的なことを口にした。
「うーんとかっこよくてー、やさしくてー、あと」
満面の笑顔で。
「料理とか家事ができる人がいいなーー!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます