④ せいら嬢の気苦労 ~せいらの語り~
「なるほど。誤解から生じたささいないさかいか」
奥付塾、自習室。
ビルの三階にあるこの部屋からは星空が見える。
光ることが仕事の星々はあたし、露木せいらの高尚な悩みなんておかまいなしに能天気に無邪気に光り続ける。
数時間前からずっと心につかえている、大切な二人の友達のことを吐き出すと、かみやんは少し離れた机の一つにもたれながら、前の一言を述べた。
「あの二人がけんかなんて、一大事よ。……ももぽん、あれはいくらなんでもひどいわ。
でも、夢っちに疑われちゃったのはつらかったはずだし。夢っちもふだん穏やかなぶん、一度怒るとがんこなとこあるのよね」
あぁどうしたらいいのーと頭をかかえるあたしに彼までもがのんきに笑うだけ。
もう、こうなったら。
きりっとあたしは顔をあげた。
「これは、文学乙女最後の一人としてあたしの義務だわ。二人を仲直りさせなくっちゃ!」
いつの間にやら移動したのか、星がひしめく窓辺から、声が返ってくる。
「そっかぁ? オレはあんましヘタなことしないほうがいいと思うけどな」
でも、だけど。
言葉を探して彼を見ると、夜空をバックに彼の漆黒の目が見つめてくる。
「こういうことは時が解決するもんだ。しばらくほっといてみ」
「そんな……無責任な。大好きな二人がこのままじゃあたし……」
なっとくいかずぶつぶつと呟いていると、ぽんと頭の上に感触がした。
彼がすぐ上から見下ろしてくる。
そのまなざしはお月様のように柔らかで。
「お前のそういう友達想いなとこ、すげー好きだけどな。時には手を出さず見守るのも友情なんだぜ」
頭をわしゃわしゃされて、口では子ども扱いしないでって言ったけど。
本心ではきゅんときて、胸をおさえて――直後、あることに思いいたったあたしは、ジト目になる。
「そんなこと言って、たんに女の子同士のけんかが苦手ってだけじゃないの?」
あたしの頭をかきまわしていたかみやんの手がとまる。
「う」
……。
ため息をついて今度は自分の頭をかくと、かみやんは自習室にいたもう一人に目を向けた。
「少年、なんとかしろ」
そこには、高校生の参考書の先取りにたまにここへきてかみやんに勉強を教えてもらっているマーティンくんがいる。そうだわ、彼なら名案があるかも。なんてったってももぽんのカレなんだもの。期待に満ちて見つめるけれど、マーティンくんはいっとうめいて、
「僕も、その。けんかというと交渉や決闘が主で、こういう微妙な分野は専門外で――」
あたしはかみやんと目を見交わして、ながーい息をついてしまう。
「なさけねーな。彼女の一大事だろ?」
「うむ。わ……かりました」
がばっと参考書からその整った顔をあげて、ぐっとこぶしをにぎる。
「ここは戦略をつかって、作戦を立ててみます」
眉間にしわをよせてなにやら考え出したけど、ほんとにだいじょうぶかしら??
かみやんと二人、もう一度顔を見合わせ、あたしはうなだれた――。
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