③ 大噴火の帰り道 ~もも叶の語り~
放課後の帰り道。
せいらと人気アニメ『ドリーマー・ドリーマー』の話題で盛り上がっていたら、ふいに夢が言った。
「ももちゃん。あの」
わざわざ立ち止まって、改まったかんじに戸惑って、せいらと目を合わせる。
「席替えの日、遠山くんとわたしのこと話したってほんとう?」
さっと、暗い雲が心にさす。
「え? あ、うん。ちょっとね」
それより、夢も昨日のアニメ見た? とさりげなく話題をそらおうとするけど。
「……そっか。遠山くん、なんて?」
通じなかった。
ぽりぽりと額をかく。
さりげなく見てた感じだと、案の定夢とあの男子とは穏やかな空気じゃなかったし、あんまり深入りさせたくないんだけど。
ばん、とわざと勢いよく、夢の茶色いランドセルをたたいた。
「夢が気にすることじゃないよ。べつにいいじゃん、なに言われたって、あんなのカレシでもなんでもないんだし」
「うん……」
せいらが気づかわし気に夢を見るのがわかる。
うん。あたしにもわかる。
会話の内容をはっきり言ってくれないのが気になる。
さまよう夢の視線は明らかにそう言っていた。
「……クラスの子は、ももちゃんもわたしのこと言ってたって」
「え?」
再び立ち止まった夢に、思わず振り返る。
地面に向けられた泣きそうな目とわななく唇から漏れ出たその言葉は。
「わたしの、悪口」
「な」
耳を疑った。
直後、かっと胸の奥のほうから、炎のようななにかが燃え立つ。
「なにそれ。疑ってるの?」
夢の顔がぱっと地面からあたしのほうに向けられる。
崩れそうな表情に強い瞳を宿していて。
「そういうわけじゃないよ。ただ、悪口なんか言っていないならどうしてそのことわたしに言ってくれなかったのかなって。今だって、遠山くんがなんて言ってたかとか、教えてくれないし」
「それは」
言おうとしてとっさに、続きを飲み込む。
言えるわけない。
あいつが夢のとなりがいやだっていっていたなんて。
この繊細な親友に。
見かねたように、せいらが口をはさむ。
「夢っち、ちがうのよ。ももぽんはね――」
それを遮るように、黒い炎があたしの口を動かす。
「なに。じゃぁ、昨日せいらとだけいっしょにいたのも、あたしのこと疑ってたからなんだ。ここ数日ろくに話してくれなかったのも?!」
夢の顔が少し、罪悪感にくもる。
「それは。い、意識してたわけじゃないけど。やっぱり気になっちゃって、それで」
夢のことを知っていればじゅうぶん理解できることだと思う。
でもそのときのあたしの耳は相手に傾ける余裕なんかなかった。
「だったらそのときに言えばいいでしょ。三日もたったあと問い詰めて怒るなんて」
「……」
夢の口が開きかけて、また閉じられる。
いつもなら守らなきゃとおもうその姿に、なぜかいらいらする。
もう、そんなだから。
そんなだからつけいられるんだ。ずるくて自分勝手なやつらに。
「だいたい日ごろからはっきりしないから、みんなに誤解されがちなんだよ。一人で黙ってずっと一つのことにとどまって。もう夢ってわけわかんない。なんでそう要領悪いの?」
「ももぽん」
せいらにとめられてはじめて、はっと口をつぐむ。
こちらをじっと見つめる夢の目にはうっすらと涙の幕がはっていた。
「ひどい。……ひどいよ。ももちゃんまで、そんなこと」
あっ――。
このときあたしは悟った。
言ってはいけないことを言ってしまったんだって。
「ももちゃんなんか、だいきらい!」
でも、悟ったときはすでに、親友は走り去ったあとだった。
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