⑥ エピローグ

「あたし、このモネの絵ハガキほしい!」

「それくらいなら、いいけど」

「あとー、この『ひまわり』クッキーと、『スイレン』サブレもね」

「もも叶。それは少し買いすぎじゃ」

「なんか言ったマーティン?」

「いえ、なにも」

「トリプルデートでぼっちにしたつけは払ってもらわないとねっ」

 夜店市から一週間後。

 テストが終わったたマーティンと僕は、もも叶ちゃんと美術館にいた。

 太陽系宝石店では僕におごらせるのを遠慮したくせに。

「きみは、マーティンになら思いっきり甘えるんだね」

 聞こえない距離でつぶやく。 

 わかってはいたけどさ。

 マーティンがもも叶ちゃんになにかささやいている。

 いつもながら、見せつけてくれる。

「それで、もも叶。先週天金の夜店で」

「ん?」

「その。……ジョニーになにもされなかったか」

 聞こえてるんだけど。

「あのね。紳士な彼にかぎってありえないでしょ」

 ……さすがに、胸が痛んだ。

「それは、そうなんだけど。でもな」

 ぶつぶつ言いながら、彼女の買った大量の荷物を持ったマーティンがとなりにきたので、からかってみる。

「ねぇマーティン。もしも、身を引くのが彼女のためだったら、きみはそうできるかい」

 ふいに、マーティンの右腕がすばやく動いて、もも叶ちゃんの首元をかすめる。

 それに気づいたもも叶ちゃんが彼を見て首を傾げた。

「あたしに、なんかついてた?」

「いや、なにも」

 ふーと息を吐いて、右手をふって顔をしかめるマーティンには、笑ってしまう。

「言わないの? 襟についてたコガネムシ、とってあげたよって」

「そのほうがいい。もも叶のやつ、気は男子より強いくせに虫が大の苦手なんだ。……で、ジョニー、さっきなにか言ったか?」

 今度はこっちが大げさに息をつく番だ。

「いや」

 美術館を出ると、真昼の月が出ていた。

 夜に見せる魔性性は、そこにちっともなくて。

 日の光のもとを歩く二人を目で追う。

 あきらめたわけじゃない。

 勝てないわけがわかったなら、克服するだけだ。

 だけど。

「どうして、かわいいアリスをさらっていく男は、にくらしいやつじゃないんだろう」

 小さくつぶやいて、僕は二人の後に続いた。

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