③ 海の赤ちゃんショーへようこそ
あたしははりきってマーティンをひっぱって、一番前の席へ。
「もも叶、そんなにあせらなくてもっ」
「海の赤ちゃんだよ? 絶対見なくっちゃ」
席について、しばらく待っている。
わくわくしていると。
おちゃめな音楽が鳴って、カラフルなライトがスタジアムを照らし出したの!
「みなさーん、こんにちはー」
ウェットスーツのお姉さんがでてきて、挨拶する。
「『海の赤ちゃんショー』に、こんなにたくさんのお友達がきてくれて、嬉しいです。それではさっそく赤ちゃんたちを紹介します」
スタジアムのプールの中をすいすい~っと泳いでくる三つの小さな影。
ペンギンの赤ちゃんと、アザラシの赤ちゃん。そして、イルカの赤ちゃんだ。
みんなちっちゃくてかっわい~❤
「はいではまず、ショーの一番手を務めるのは、ペンギンのペギーちゃんで~す」
まだ毛がはえそろってないペギーちゃんが、水からあがってサイドに立つ。
前にはこれまたちっちゃい平均台がある。
「ペギーちゃん今日は平均台を歩きます。ではスタート!」
うわ~。わくわく。
……あれ?
ぺギーちゃん、いつまで経っても平均台に乗らない。
お姉さんが持ってる餌のお魚ばっかり見てる……。
「ほらペギーちゃん、練習したとおりにやって!」
お姉さんが叱るけど、そっぽむいて、ぜんぜん興味なし。
はは、まだ赤ちゃんだもんね……。
「もも叶。そういうのはだめだと思う。仲間が頑張ってるんだから、君も、逃げずに勝負にでるべきだ」
え、なに、マーティン、あたしがなにを勝負すべきだって?
横を見ると、マーティンは、なんと舞台のペギーちゃんに向かってた。
「それがチームっていうものだろ。ほら、平均台に乗るんだ」
ペンギンの赤ちゃんに説教しとる……。
そしてついでにもひとつ気になりますけど。
なんでペギーちゃんのこと人の名前で呼んでるの。
「ごめん。こういう何事にもとらわれない自由なところが、ちょっと……似てるかなって」
「……」
前からちょっと疑問だったんだけど。
マーティンにとってのあたしっていったいどんなイメージなんだろう……。
ペギーちゃんのことを懸命にもあきらめたお姉さんが、次はアザラシのラッシーちゃんです、と切り替えた。
ラッシーちゃん、よろしくお願いしますっておじぎしてる。
ひれを広げて、頭下げて。
超かわいい……!
「ラッシーちゃん、今日も調子いいわね。それではお得意の、ボウル回しです! そーれ」
お姉さんが投げたボールを鼻の先で回すラッシーちゃん。
あたしたち、思わず拍手。
赤ちゃんなのにえらーい!
あたしがペギーちゃん(ちょっと納得いかないけど)なら、なんでもそつなくこなす、ラッシーちゃんはせいらタイプだね。
「さて、最後は、イルカのルカちゃんの大ジャンプ&久寿玉割りです!」
お姉さんが言って、えぇっ。
赤ちゃんにハードな課題!
「ルカちゃん! ジャンプして、フラフープをくぐって!」
お姉さんが言うのに、小さいイルカちゃんは、水の中でびくびくしてる。
「だめか~。ルカちゃんどうも、勇気が出ません!」
あはは。
あの臆病者は、夢ってとこかな。
「客席にどなたか、力を貸してくれるお友達はいませんか~」
お、夢のピンチ!
ようしっ。
「はい、はーいっ」
手を上げるあたしに、横でマーティンが驚いてる。
「はい、じゃそこのおだんごのお嬢さんと、隣の彼」
よーし!
戸惑うマーティンの手を引っ張って、あたしは立ち上がった。
いっちょ、やりますか!
「ルカちゃ~ん、お願いよ。今日はペギーちゃんがやる気なかったから、あなたまでやらないわけにいかないのよ~、ファンタジア水族館的にも」
あはは。
お姉さんはわりかし必死だ。
あたしたちがそれぞれお手伝いの道具をお姉さんに渡されて指定されたポジションについても、イルカの夢はまだ決心がつかずに、水の中をあっちへいったりこっちへ行ったり。
きゅんきゅんと小さい鳴き声が弱々しい。
あたしとマーティンはアイコンタクト。
ここは、応援だ!
「がんばれ~夢! 夢なら絶対大丈夫!」
あたしはフラフープをもったままエール。
「そうだ、夢未、僕らがついてる!」
マーティンも離れたところで久寿玉のついた棒を持ちながら応援する。
「あの……この子はルカちゃん、なんだけど」
お姉さんのつっこみも、用無し。
夢はあたしたちの言葉に反応して、小さな身体で大きな水しぶきをあげて、飛んだ――!
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