⑨ 恋の波にダイブ! ~夢未の語り~

 『秘密の花園』で、わたしはカフェメニューを食べていた。

 今日注文したのは、かわいいマカロンのセット。

 もう、ダイエットはやめたんだ。

 あぁ、思いっきり食べれるって幸せ。

 白い丸テーブルの右隣にはせいらちゃんが、左隣にはももちゃんがいて見守ってくれてる。

 わたしってやっぱり、幸せ者なんだ……。

「その様子じゃひとまず安心だわ」

「星崎王子もほっとしたんじゃない?」

 せいらちゃんとももちゃんにわたしは頷く。

「うん……」

 昨日も夕飯きちんと食べたら、星崎さんよかったって笑って見ててくれてた。

 でも、ちょっと気になってることがあるんだよね。

「昨日の星崎さん、ちょっと元気なかった気がして……」

 いつもは本のこととか色々お話しするのに、そういう言葉も出なくて。

 なにか心配事ですかって訊きたかったけど、無理して笑ってくれるから、そんな雰囲気にもならなくて。

 そう言うと、せいらちゃんが表情を曇らせた。

「……夢っち。余計なことかもとは思ったんだけど、実はね、あたし調査してみたの。星崎さんと小夏さんについて」

「ええっ」

「下着屋さんのときのあの颯爽とした佇まい、そしてかっこいい行動。小夏さんってかなりの強敵だって気になって仕方なくて。それで、昨日星降る書店から、二人が連れだって出て行くのを見て、つい」

 せいらちゃん、そこまでわたしのこと……。

 でも、二人でお店で待ち合わせてどこか行くなんて、やっぱり……。

 わたしがうつむくと、せいらちゃんは言いづらそうに、一言言った。

「中央公園で小夏さんがね、星崎さんに、好きって言ってたの」

 え……。

 ショックで目の前が真っ暗になりそう。

「でもね、星崎さんはなにも答えなかった。多分、二人は恋人同士ってわけじゃないと思うの。だから元気出して」

 せいらちゃん……。

「少なくとも、甘い空気ではなかったわ。もっとこう、深刻なかんじだった。二人とも、辛そうで」

 そっか……。

 二人とも優しくてすてきな人なのに、どうしてかな。

 二人のあいだになにか、悲しいことがあったとか……。

 でも、今はそれと同じくらい気になることがあった。

 わたしはせいらちゃんのほうに顔を上げる。

「どうして、そんなことまでしてくれるの?」

「友達でしょ? と、即答したいとこなんだけど」

 せいらちゃんはかすかに笑って、テーブルの上に目を伏せた。

「それだけじゃない、かな」

 なになに、どういうこと?

 わたしとももちゃんは身を乗り出した。

「……あたしも、片思いしててね。相手は年上なの」

 !

 わたしとももちゃんは思わず目を合わせる。

「彼、婚約者がいるんだ。だから、夢っちの辛い気持ち、すごくよくわかって。力になりたくて」

 そうだったんだ……!

 せいらちゃんも辛い想いしてたんだね。

「わたしだけじゃなくて、みんな切ない状態かぁ……。なんか、余計しんみりだね。ももちゃんも、マーティンと会えなくて辛いし」

 わたし、何気なく言ったら、ももちゃんが真っ赤になってもじもじしだした。

 え!

 なにこの反応。

「ももちゃん、なにか進展あったの?」

 あわててももちゃんは手を振る。

「い、いいの、あたしのことは!」

「なぁに。例の西洋文学出身のイケメン男子? 気になるわ。話して」

 せいらちゃんも言う。

「ももちゃん、ひょっとして、わたしたちに遠慮してるんじゃない? 自分だけ幸せな報告するの悪いって思ってる?」

「……そういう、わけじゃ」

 小さい声が正直に語っちゃってるよ。

 ももちゃんはそういう子だもんね。

「みんなが悲しい時こそ、メンバーに明るい話題があれば嬉しいよ」

「そうそう。いやじゃなければ聞かせてほしいわ」

 わたしとせいらちゃんはそっと、ももちゃんの方へ身体を傾けた。

 「マーティンから電話がかかってきた!?」

「しかもデートの約束したですって!?」

 わたしとせいらちゃん、一転して大興奮。

 そのときモンゴメリさんがトレイに桜色のマグカップを三つのせてきてくれた。

「新メニューなの。試食してくれる? 名付けて、ラブ・ウェーブ 恋の小波」

 ラズベリーやブルーベリーがピンクのシェイクの上に波打ってる。

「おいしい!」

 モンゴメリさんはぴんと人差し指を立てる。

「恋愛の波、というのがあるのよ。お友達が一人、うまくいっていると、他の子にも次々と幸せが起るの。みんなにもすばらしい恋の波がきますように」

 みんなで同じシェイクを味わって、そこにあったかくてまあるい空気が漂ってる感じ。

 元気がみなぎってくる。

 あっ。

 もしかして、いいこと思いついちゃったかも!

「これは、わたしとせいらちゃんも、ももちゃんの恋の波にのっかるしかないかも」

 呟いたわたしに、二人が目を向けてくれる。

「ももちゃん、デートの日はもちろん、彼にチョコあげるんだよね?」

「うっ、夢、なぜにそれをっ」

 ふふっ。だってもうすぐバレンタイン。

 恋する女の子だったら、絶対考えるよね。

「思い切って、ももちゃんのデートの日、わたしもせいらちゃんも彼にチョコを渡そうよ」

 みんなで決めれば、勇気が出るかもって思ったんだ。

「いいね、それ。最高」

 ももちゃんが賛成してくれた。

「決まりだね」

「それじゃ次の日曜日にまたここにいらっしゃい。みんなで彼に渡すお菓子作りに励みましょう。恋愛運を上げるお菓子のレシピがちょうど知り合いから届いたところなの。伝授してあげる」

 わぁっ。

 モンゴメリさんもはりきってる。

 せいらちゃんだけは黙って考えてこんじゃってる。

「せいらちゃん、どうなるかわからないけど、波にダイブしてみようよ」

 笑って励ますと、せいらちゃんはしばらく考えてゆっくり決心したように言った。

「……いいわ」

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