第1章 ワンスアポンアタイムイン・異世界−2
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意識を取り戻し、目を開くと、そこは見慣れない古びた洋館の一室のようだった。私は天蓋のついたベッドで横たわっており、初老の男性と20歳前後と思しき背の高い青年がベッドの脇に立ち、彼らは身じろぎした私を目にするや否や凄まじい形相で身を乗り出した。
「い、生きてる!」
白髪まじりで口髭を蓄えた初老の男性は叫んだ。
「見て、フユキくん!」
「ああ、父さん。生きているね!」
フユキと呼ばれた青年は、胸の前で両手を合わせ、神に祈るような仕草をして答えた。
何が何だか分からないままに手を貸され、上体を起こした。部屋は20畳ほどで、ベッドの左手に設えられた大きな窓からうららかな日差しが室内に差し込んでいた。見知らぬ男性二人は、口々に神の御心に感謝の言葉を捧げ、今日は祝福すべき日だなんだとまくしたてる。壮年の男性は目を潤ませ私の手を握った。薄いグレーの瞳は上品だが、眉間に刻まれたシワや下に向いた口角から人生の苦難を少なからず乗り越えた故に築かれた厳格な性格が伺われる。どこか痛いところはないかと頬や手を撫で、目を点にし続ける私を気遣う様子を見せながら、彼はこう言った。
「君はずっと眠っていたんだよ。」
私としては長く眠っていた記憶はなく、昨夜もいつもどおり、ただ朝を迎え、日本社会を支える一員として働くために就寝したつもりだったが、迎えた朝はいつもどおりではないようだった。見知らぬ部屋に見知らぬ男性、夢ではないことは熱く握られる左手の感触で分かった。では一体ここはどこなのだろうか。二人の男性は私のことを知っているようだ。一頻り盛り上がり落ち着きを取り戻し始めた彼らは、私が話し始めることを待っている。
「ずっと、って、いつから。」
馴染み深いはずの自分の声はこの異質な世界に飲み込まれ、含ませた意味を失う。青年はそっと私の頭に触れた。
「ずっと、さ。」
腑に落ちない回答だったので再び口を開こうとしたが、青年はそれを制した。
「大丈夫、チアキちゃん。話すべきことは後で話そう。ひとまず朝食だ。」
それだけ言ってしまうと、青年は身を翻し颯爽と部屋を去った。
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