冬を待つアルターイプセ
@chansam_owari
第1章 ワンスアポンアタイムイン・異世界
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シェイクスピア、ピカソ、モーツアルト……有史以来、数え切れないほどの人間が生まれ、死んだ。その中の一握りとされる「天才」と呼ばれる人間たちもまた同様に数え切れないほど誕生してきた。シェイクスピアは20代にはすでにロンドンの劇場で自身が執筆した戯曲の演出を手がけ、ロンドン市民を熱狂させた。彼が書いた戯曲の人気は凄まじくあちこちで模倣されたため、シェイクスピアが自身の権利を主張するために定めたルールが著作権の起こりだったとも言われている。最も多作な画家としてギネスブックに名を残すピカソは、奇抜な画風で空虚主義と呼ばれるキュビズムを起こし、今やこの世界で名を知らない者はいない。私は、ピカソがまだ美術学校に通う14歳のころに描いた、石像のデッサンを見たことがある。影を縫う繊細な筆致が余白に意味を持たせ、石像に当たる光の眩さを映し出していた。神に愛された神童モーツァルトは、驚くことに3歳にして音楽家であった父親に才能を見出され、音楽の才能を見抜く才能をもったサリエリに憎み愛されながらこの世を去るまで、天才として生まれ天才として生涯を送った。このうちの一人でも、人生を二度生きた者はいたのだろうか。一度生きた人生を一からやり直した者はいたのだろうか。つまり、努力が認められない、そもそも努力しなかったことが原因で何も成し遂げられなかった一度目の人生を捨てて、ただ数十年徐に生きているうちに得た知識や多少は磨かれた感性と、一度目の人生にはない「今度こそ何かを成し遂げなければならない」という焦燥を武器に、第二の人生で無双した結果、世界史に名を残した者が、一人でもいるのだろうか。もしいたのだとしたら、それはとても不平等で、そしてありがたいことだと思う。一握りにあぶれた人間たちが、自分が何者にもなれないことへの言い訳にできるから。私たちは一度目の人生を大切に生きられなかっただけで、偉人や成功者たちはたまたまやり直せたから、私よりうまく生きることができただけなのだ。だから私は強くてニューゲームなんてしたくない。自分の無能さに言い訳ができない人生なんて怖すぎるから。
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