第339話 糸恋って俺のこと好きなんだろうな
2月17日日曜日の朝。
一晩中失神していた俺が目を覚ますと、私服姿でリビングのソファに転がされていた。
記憶が飛んでいる間に一体何が?
体からはお風呂上がりのシャンプーの香りがただよっている。
どうやら、誰か、もとい桐葉がお風呂にいれてくれたらしい。
意識のない俺の体をどう洗っていたかはあえて考えないつもりだったけど、顔が熱くてたまらない。
「どうしたのハニー君? 朝からソファの上でもだえて」
「RECしていないよな!?」
「え!? 何を!?」
美稲は珍しくビビっていた。
「ハニー、朝ご飯だよぉ。早く歯を磨いて、あ、それはもう磨いたんだったゴメンね」
キッチンから顔を出した桐葉の肌が光輝いて見えた。
◆
皆で仲良く朝食を食べていると、テレビのニュースではここ最近の復興状況について報道していた。
史上初の3Dプリンターとドローン、そして超能力を併用した世界最速の復興に、世界からアジアの奇跡と賛美されているらしい。
そして、その復興計画をけん引する早百合さんを英雄視する声が高まっているようだ。
「流石は早百合さん、ボキャ貧ですいませんが凄いしか言えませんよ」
「早百合ちゃん」
「え?」
ジト目を作るように早百合さんの瞳が細くなる。
「たまには早百合ちゃんと呼ぶように」
「あ、はい、早百合ちゃんは凄いですね」
「そうであろう?」
早百合さんがゴキゲンになった。
——子供っぽいなぁ。
でも、そういうところを可愛いと思ってしまう俺がいた。
「しかし、喜んでばかりもいられません」
平坦な声の真理愛がコーヒーカップを置くと、一枚のMR画面が開いた。
そこに表示されているのは、ネットで活動するアンチたちの暴れっぷりだった。
「なになに、第二次関東大地震は早百合さんの自作自演? こいつは早百合さん」
チラリ
「早百合ちゃんにどんな力があると思っているんだよ?」
「どうやら、早百合さんが地震発生能力者を隠し持っていると思っているようです」
「んな能力者がいたらとっくにOU本土を襲撃してるっつの」
前回はミサイルを撃ってから宣戦布告をしてきたOU。
けれど、あれからOUからの侵攻はない。
相変わらず海の向こうで睨んでくるだけ。
経済制裁は色々と打って来るけど、今の日本には効かない。
経済破綻して一度あらゆる国との貿易はストップしたし、あらゆる資源を自国で賄えるのだから。
人口20億人のOUに輸出できないのは痛いけど、代わりに東南アジア各国で組織されたパシフィック・アジア・ユニオン、通称PAUへの輸出が伸びているようだ。
「オフィスビル街の完成って来月ですっけ?」
「うむ。東京の復興は3Dプリンタ技術で順調に進んでいる。3月4日にはオフィスビル街が完成の見込みだ。住宅区は、前の土地を買い上げて元住民には十分なお金を払っている。その上で新住宅区の土地を売りに出す。今、飛ぶように売れている。あとは個人個人が建設会社に希望を伝えて図面を引いてもらい費用を払い建設してもらえばいい。そこは流石に個人の問題だ。だが、国のほうで一戸建てとアパートとマンションを1万戸ずつ建てて売る予定だ。仕事は新人の建築デザイナーに任せる。これも人材育成だ」
復興しながら人材育成まで考えているとは恐れ入る。
「それよりも問題は、異能学園都市だ」
早百合さんの声音が重くなり、俺は息を呑んだ。
「入学希望者は右肩上がりなんじゃないんですか?」
「以前に比べればな、しかし――」
早百合さんの言葉を遮るようにチャイムが鳴った。
真理愛がデバイスで玄関のカメラにアクセスすると、貴美美方と糸恋の顔が映っていた。
◆
「朝早くから悪かったな」
「いえ気にしないで下さい。これも生徒会長の務めですので」
総理大臣である早百合さんに敬意を払いつつ、美方は食卓テーブルに着いた。
すると糸恋がお土産に持ってきた紅茶を勝手知ったる手つきで淹れ始めた。
朝食が片付けられたテーブルへ糸恋が紅茶を配膳すると、桐葉は自分の指先からハ
チミツを垂らした。
「他にもハチミツいる人は?」
「欲しいのです」
「はい麻弥」
桐葉が麻弥の紅茶にたっぷりとハチミツを注ぐと、糸恋が肩を縮めた。
「ウチ、桐葉はんの下位互換なんかなぁ……」
「そんなことないだろ?」
「せやけど、蜂の桐葉はんはウチとちごうて飛べるしハチミツに蜜蝋にローヤルゼリーにプロポリスを生成できるし……」
「糸恋だって蜘蛛糸を生成できるだろ?」
「桐葉はんやってホーネットシルク言う絹を生成できるやんか……」
「それでも強度は糸恋の方が上だろ。それに舞恋に言ったけど、人は道具じゃない。優秀だから一緒にいるんじゃなくて、好きだから一緒にいるんだ」
「好き!? ッッ……」
糸恋はすっかり顔を赤くしてからうつむいてしまった。
それから、はにかんだ笑みでチラチラと俺に視線を送って来る。
うぬぼれているつもりはない。
自意識過剰だとは思わない。
もちろん調子にも乗っていない。
だけどその上で言わせてもらいたい。
――糸恋って、俺のこと好きなんだろうな。
きっかけはなんだったのかわからないし、そんなものは人それぞれだろう。
それに、桐葉、真理愛、麻弥、茉美、詩冴、美稲、早百合、舞恋、これだけの女の子たちから愛されているのだから、少しは自信を持っていいだろう。
「それで早百合さん、こんな朝から二人を呼び出してどうしたんですか?」
「うむ。異能学園都市の設計についてな。それで、どうなった?」
紅茶のカップを置いてから、美方はハキハキと返事をした。
「はい。例の箱庭ゲーム内で住民満足度90%以上の作品は106作品。この中から実現可能なものをピックアップし、その中から異能学園の生徒が投票で絞っていく予定ですわ。最初の投票で上位10作品に絞り。二次投票で2作品に絞り、最後に決戦投票をすれば、コンドルセのパラドックスを減らせますの」
舞恋が首を傾げた。
「コンドルセのパラドックス、て何?」
「多数決で選んだ答えでも皆が納得するものにはならないという理論です」
「なんで? だって多数決はそれがいいっていう人が一番多い案なんでしょ?」
舞恋のもっともな感想に、美方は先生口調で答えた。
「例えば10人の人がABCの三択を選ぶとき、Aが3票、Bが3票、Cが4票なら、Cを選ぶのが一番良いとなります」
「うん、そうだよね」
舞恋が納得したのを確認してから、美方は説明を続けた。
「ですが、もしも残り6人が一番嫌なのがCだった場合、過半数の人が嫌な思いを致します」
「あっ!」
舞恋が素直に驚くと、美方は満足げに頷いた。
「そしてもしも、AではなくBCに投票した人に、二番目に良いもの聞いて全員がAを選んでいたら、Aを選んで嫌な思いをする人は誰もいないことになりますわ。なら、Aを選ぶのが最善ではなくて?」
「そっか……それに、AとBで迷って僅差でBに投票している人もいるよね」
「ええ。ですから一度の投票で全てを決めるのではなく、下位のものを切り捨てながら複数回投票をするのが良いのです。また、気に入ったもの上位三つに投票できるようにするのも効果的ですわよ」
美方がドヤ顔で説明しきると、舞恋、麻弥、真理愛の警察班三人が感心しながらちっちゃく拍手をした。
俺も一緒に拍手をしながらため息が漏れた。
「美方ってバカじゃなかったんだな」
「アナタはワタクシをなんだと思っていますの!? まったく守方といいハニーといい! これでもワタクシは名門貴美家の子女にして異能学園初代生徒会長ですのよ!」
——そういえば美方って成績最上位者の1組なんだよな。ようするに……。
「そうか、賢いバカだったのか」
「賢いバカ? それはどういう意味ですの?」
「清濁併せ持つ完璧な存在ってことだよ」
「ふっ、ようやくワタクシの偉大さに気が付いたようですわね」
美方はドヤった。可愛い。
それにしても、なんで守方はいなかったんだろう?
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巨乳ネタが多い本作だけど最近はあまり流行らない様子。エロも含めて。
いつ下火になったのかな?ちょっと考えよう。読み飛ばし可。
まず歴史的に世界中の男性は古代から巨乳好き。日本では例外的に着物を着る関係で巨乳は意識されなかった。(奈良飛鳥時代の日本人は巨乳好きだった)
戦後、洋服の普及と欧米文化の流入で【グラマー】という単語が入って来た。そして日本人男性は再び大きなバストに魅力を感じるようになった。
そして昭和後期、【ボイン】という単語生まれ、続けて【デカパイ】という単語が生まれた。昭和の頃はDEKAIカップで【Dカップ】が巨乳扱いだった。
漫画でも巨乳ヒロインはDカップが多かった。
巨乳という単語が広まったのは1989年らしい。鏡銀鉢が生まれた年である。
……運命を感じますね。
そして90年代になると巨乳ブームが起こった。
こち亀のヒロインたちが次々巨乳化。
コミックボンボンではロボットぽんこっつという、頭よりも大きなというバストのヒロインたちが活躍する作品が生まれた。
コロコロコミックではアニメ版ポケモンのコミカライズでカスミが巨乳だったり、ムサシが爆乳だったり。
アニメもモンコレナイトのグー子、バトシーラーのレディメイド、コルコギャルなど、子供向けアニメでも巨乳キャラがガンガン出ていた。
1997年には天上天下が連載開始。
そして2000年、ついに伝説の作品、ご存じ爆乳ハイパーバトル作品、一騎当千が連載開始。
2005年にはクイーンズブレイドが刊行された。
天上天下以降、爆乳ヒロイン同士が戦う作品が多かった印象があります。
ちなみに週刊少年ジャンプで矢吹神がToLOVEるを描き始めたのは2006年。
2008年ラノベでハイスクールD×Dが開始人気になる。
2009年めだかボックス、あねどきっが連載開始。一時はこの三本同時に連載されておりジャンプが華やかだったが同年秋、ToLOVEるの連載が終了。
2010年初頭、あねどきっが連載終了。
巨乳の谷間ヒロインめだかちゃんが唯一のセクシー路線でしばらく戦いつつ、たびたび巨乳ヒロインたちの出る新連載が始まるも長く続かず。
そして2011年、めだかが衣装チェンジで胸の谷間を隠した健全衣装にシフト。以降、胸を出さなくなる。
2013年、めだかボックス連載終了。同じ頃に新米婦警キルコさんも終了。
ジャンプからセクシー枠、巨乳ヒロイン枠が消失。
そして長い冬が始まる……。
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4月1日に常連様からギフトを頂きました。お花見ギフトありがとうございます。
桜の季節ですね。北海道もそのうち咲くでしょう。
スクール下克上は今月も一週間未満更新を頑張ります!次回更新予定は
4月08日 第340話 真理愛ちゃんの検索ワード履歴
4月14日 第341話 ●●●●●●ロい15禁
4月20日 第342話 麻弥たんの父親からのメール
4月26日 第343話 麻弥との結婚は認めない!
5月●●日 第344話 娘さんを僕にください! です。
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本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。みなさんのおかげで
フォロワー25894人 1364万5148PV ♥197592★10391
達成です。重ねてありがとうございます。
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