第336話 賢者タイムってどういう意味ですか?
「論点がズレているぞクソガキがぁ!」
割って入ったのは五十代、アラフィフぐらいの荒っぽいオバサンだった。
「胸を強調したPVが学校に相応しいだの、乳袋制服を作っていいかだのオレらはそういう話に来たんじゃないだろ? 胸を強調した映像をネットに乗せることそのものが問題だって言ってんだよ! 新制服のPVって言うから見た人に対するセクハラじゃねぇか! エロい広告や看板と同じで環境型セクハラだ!」
「この世界最強の超能力者! 万物を灰にする灼熱紅蓮のマグマ使いにして異能学園初代生徒会長にして絶世華憐の超絶美少女にして清廉潔白健全娘! ボルケーノ貴美美方様が出演するPVがセクハラとは何事ですの!? 見るがいいですわこの優美な姿を!」
席から立ち上がった美方は全身から自信に溢れたロイヤルオーラを放ちながらカメラに向かってキメ顔を作った。
背筋を反らした影響で、Fカップの胸が、ぐいっと突き出された。
「だから胸を強調するなって言ってんだろ!」
「胸? ……はっ!?」
自身の胸を見下ろして、美方は顔を赤らめた。
「まさか貴女! ワタクシの豊麗なるバストを見て欲情いたしましたの!? なんて汚らわしい! 女性の胸にハレンチな意味しか見いだせない、胸=ハレンチの単純回路思考! 恥を知りなさい! ワタクシはただ窮屈な思いをしている子女の皆様を救おうと体に合った制服を告知しただけなのにそれをそんな不健全な気持ちで見るだなんて屈辱ですわ!」
——ぉぉお……まさかの平常運転が論破になっている。こんな日が来るとは仏さまでも予想だにしなかったろう。
「姉さんかわいそうに。僕のうしろに隠れていいよ」
「感謝しますわ。ですがワタクシはあのように下半身でしかものごとを考えられないドスケベ人種には負けませんわ!」
拳で涙をぬぐってから、美方はガッツポーズをキメた。
――画面の前の皆さん。この子マジですからね。これ演技じゃないんですよ。
「はっ、残念だったな。オマエのPVは日本中の男共が性的な目で見ているぜ! 見ろよ、このネットの反応を!」
アラフィフが展開したMR画面には、PVへの感想の抜粋が表示されていた。
『最高のPVだわ。マジで賢者タイムになれる』
『それな』
『日々賢者を量産する賢者動画』
『おれもこの動画で毎日賢者になっているわ』
『生徒会長マジ賢者量産機』
どうやら、新制服のPVはかなりの数の男子のオカズにされているらしい。
みんなの恋人としては嫌な気持ちになる。
けど、そんなの好きな女子をオカズにするタイプの男子は元からしていただろうし、なんならアビリティリーグのPVでもしていただろう。
それに、みんなは制服越しでしか見られない桐葉の裸を、俺は毎日見ているんだと思えばむしろ優越感がまさる。
でも、美方はそれでは済まないだろう。
「流石はワタクシ。高貴なオーラで凡民たちを浄化し底上げをするだなんて最高ですわ♪」
——え?
「あん? テメェわかってんのか!? 世の中の男子たちはオマエを見て賢者になっているんだぞ!?」
「わかっていますわよ? 賢者とは賢い者のこと。つまり皆、ワタクシの姿に精神を昇華させているのでしょう?」
一点の曇りもない瞳で言い切った。
何をどうしたらここまで純粋な子に育つんだろう。
麻弥たんとは別ベクトルの無垢さに、相手女性陣は呆気に取られていた。
「そうじゃねぇよ! 賢者タイムってのはテメェのいうハレンチな意味なんだよ!」
「賢い者を意味する賢者がどうしたらハレンチな意味になりますの!? きちんとわかるようにそのお口で説明してみなさい!」
「そ、それは……ッッ」
「ほら言えないんじゃないですの。凡民がこのワタクシを論破しようなどとは二度と思わないことね。オーホッホッホッ!」
「うんそうだね。これで解決したね。流石の大岡裁きだよ。じゃあ姉さん、後処理は糸恋ちゃんたちに任せてお化粧直しに行こうか」
「そうですわね。ではちょっと失礼しますわね」
メンタル・ドクターストップがかかった美方は、守方に連れていかれて退場。
あれ以上は、我が校の恥になるのでグッジョブだ。
結果、その場にHカップの桐葉と糸恋の二人が残ることになり、アラフィフの額に青筋が浮かんだ。
「あのバカと違ってオマエらは賢者タイムの意味わかっているんだろ? 見ての通りあのPV性的搾取なんだよ」
アラフィフが声を荒らげる一方で、糸恋はいたって冷静だ。
「出演しているウチらは何も失ってへんで。誰が誰に何を搾取されたんや?」
「女を性的な目で見るのは全ての女に対する性的搾取なんだよ!」
「? その説明やと恋人や妻を性的な目で見たら全女性への搾取にならへん?」
「正論パンチでイキるなロジハラ野郎! 巨乳なんて下品なものを見せつけて男をたぶらかして性犯罪性を助長させるな! テメェらのせいで男共はオレら女を性的消費物としてしか見なくなって性犯罪が増えるんだ! 全国放送の場でそんな胸を強調した服を着てきて恥ずかしくないのか! 今は手術で胸を小さくできたりするんだからテメェら巨乳は全員Aカップにしろ!」
「はいルッキズム頂きました」
桐葉が両手を合わせて口角を上げた。
「キミら、ただの巨乳差別主義者だよね?」
『ッッ!?』
「せや! ていうか、女性を差別してんのはあんさんらやろ。胸を強調した服って言うけどこれはただのワイシャツとブレザーやないの。胸元の露出度はゼロ。胸を寄せて上げるわけでもなし!」
糸恋の言う通りだ。
新制服は胸のサイズに合わせて胸元の布を多くしただけで、別に胸を強調する構造になっているわけではない。
「ウチは乳がデカいから目立つだけや! 胸がデカイから胸が目立つ。それは背の高い人が目立つのと同じ。着ぐるみでも着ない限り爆乳は隠せへん。なのにあんさんらみたいなモンらはいつもいつもみんなと同じ服やのに胸を強調してると言ったりみんなと同じ踊ってみた動画を投稿したら胸を揺らして下品だの。巨乳女子を一番苦しめているのは他でもないあんさんらやろが!」
同感だ。
たとえるなら、身長2メートルの人が他人を見下ろして話した時に「長身自慢しているのか」と言ったり、髪の長い人が踊った時に「髪が揺れてうっとおしいからお前は踊るな」と言うようなものだ。
背が高い人は何を着ても目立つ。
でもそれは長身を強調しているわけじゃない。
動けば体の何かが揺れるのは当たり前。
それを非難するほうが差別だ。
「オマエらが性的な目で見られると不愉快なんだよ! この嫌な気持ちをどうしてくれるんだ!?」
「うん? 見られとるのはウチらやのに、なんであんさんが嫌な気持ちになるんや?」
眉根を寄せる糸恋に、アラフィフはドヤ顔をキメた。
「なんでって、そんなこともわからねぇのかよ。いいか? オマエらが性的な目で見られるっていうことは、同じ女であるオレらも性的な目で見られるってことじゃねぇか」
他の女性陣たちも、そうだそうだと同調し、野次を飛ばした。
一方で、糸恋は深く困惑の表情を示した。
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嘘のような実話 外伝
2024年3月8日に鳥山明先生がお亡くなりになったとニュースが報じられました。前回の335話の更新で書くべきでしたが、私如きが追悼コメントなんておこがましいと控えさせていただきました。
しかしながら自らを卑下して自粛するのはよくないと考え、SNSで世間に主張するのではなく、336話まで本作を読んでくれた読者の皆さんとだけ共有させて頂ければと思います。
最初、ニュースを目にした時は理解が追いつきませんでした。
嘘でしょ?何かの間違いでしょ?同姓同名の別人の話じゃないの?フェイクニュースや誤報でしょ?硬膜下血腫で入院したって話だよね?退院するんだよね?
と考え続けていました。
ですが毎日、訃報のニュースや著名人の追悼コメントを目にするうち、少しずつ実感が湧いてきて、理解するに至りました。
鳥山明先生はその圧倒的な画力やデザインセンスが勝算されがちですが、私にとってはそのシナリオ、ストーリー力にリスペクトが止まりませんでした。
鏡銀鉢にドラゴンボールを語らせるとそれだけで動画が何本も作れてしまうので思い出話はまた次回ということで今回は割愛いたします。
この336話の感想、コメントではスクール下克上ガン無視でみんなの鳥山作品の思い出やなんかを自己主張しまくって全然OKです。
それでは長文失礼いたしました。
私の追悼コメントに失礼がありましたら重ねてお詫びいたします。
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次回更新予定は
3月21日 第337話 バーサーカーに論破は通じない?
3月27日 第338話 このあとどちゃくそマーキングされた
4月●●日 第339話 糸恋って俺のこと好きなんだろうな
です。
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本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。
みなさんのおかげで
フォロワー25707人 1348万3871PV ♥194772★10331
達成です。重ねてありがとうございます。
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