第226話 男にとってこれ以上幸せなことがあるだろうか

 二週間後。

 10月29日の朝。

 俺は目を覚ますと、心臓が飛び跳ねるほどトキメいた。

 目の前に、桐葉の笑顔があった。


「おはようハニー、昨日はよく眠れた?」


 慈愛に満ちた優しくも、愛に溢れた美しい笑み魅了されながら、五感の刺激に圧倒された。


 桐葉は、まるで俺のことを抱き枕のように扱っていた。

 胸板で押し潰れる豊乳の感触や背中に回された腕のぬくもり、鼻腔をくすぐる甘い香りに、際限なく興奮した。


 だけど、俺はすぐに昨夜の、ひいてはここ二週間のことを思い出して冷静になる。


 ――そうだ。俺は桐葉と毎晩一緒に寝ることになっていたんだ。


 それから毎朝、まるで日課のように、俺は嬉恥ずかしい現状を享受している。


「えへへ。毎朝ハニーでぬくぬくできてボクしあわせぇ」


 無邪気な声でほおずりをしてくる桐葉が可愛すぎて逆らえず、俺はもうされるがままだった。


 ――ぐぅ、桐葉が可愛すぎて生きるのが強い。


 彼女が俺の恋人だと思うだけで、100年は戦える気がしてくる。


「じゃあハニー、ボクはそれなりに満たされたからもう起きるね。朝ご飯作って待っているから、ハニーも早く歯と顔を洗ってリビングに来てね」


 するりと、未練なくベッドから抜け出すと、桐葉はウィンクを置き土産に部屋を出ていってしまった。


 一方で、後に残された俺は、不完全燃焼感で悶々としつつも、言いようのない充実感があった。


 愛する彼女に毎晩添い寝して貰って、彼女の体温に起こされて、目を開ければ彼女の笑顔がある。


 男にとって、これ以上幸せなことがあるだろうか。


 美稲は、ちゃんと桐葉たちを幸せにするよう言い含めてきたけど、この幸せを手放す気なんてない。全力で、幸せにするつもりだ。


 さっきまで桐葉と一緒に入っていたかけぶとんを抱きしめて、俺は今ある幸福を噛みしめた。


 けれど、そんな気分を台無しにするように、視界には新着ニュースが表示された。



 【国連、海水使用制限法案を可決 即日施行】



   ◆



「よし」


 早百合さんからのメッセージで金属生成は休みになった。

 半月ぶりに登校した俺は、学校の正門近くにテレポートして周囲を確認。


 人通りの少ないポイントを確認してから、桐葉、真理愛、詩冴、美稲、茉美をアポートした。


 周囲の生徒は慣れたもので、桐葉たちが突然現れても驚きはしなかった。

 通りしなに、


「あ、1組のハニーたちだ」

「いつものか」

「テレポート便利ぃ」

「でも最近見ていない気が……」


 とか、つぶやくのがせいぜいだ。


「毎朝ありがとう、ハニー。じゃあ行こ」


 桐葉が笑顔を見せながら俺の左手を引くと、真理愛も素早く俺の右手を取って歩き始めた。


「仲いいね」

「そうね」


 美稲がほっこりすると、茉美は詩冴の額を手で押さえながらすげなく応えた。


 詩冴の手は、茉美のおっぱいに手を伸ばし宙をつかんでいた。


 無視して正門をくぐり、学園の敷地内へ足を踏み入れた。

 同時に、視界内に学内ローカルネットへの接続マークが表示された。

 すると、それを引き金に琴石の明るい声が耳に届いた。


「みなさんおはよーさん。1年2組の琴石糸恋ですぅ」


 美方の対立候補である琴石が、後援者である滑川鳴芽子と一緒に、街頭演説をしていた。

 どうやら、学内ローカルネットにつながったことで、琴石のマイクアプリの対象に入ったらしい。


 ――しばらく学校休んでいたから知らなかったけど、こんなことしていたんだな。


 琴石の人懐っこい笑顔と明るく親しみやすい声に、けっこうな数の生徒が足を止めて聞きいっていた。


「ウチはこの学園を誰もが輝ける場所にしたいと思ってます。超能力の種類で格差がつくなんて言語道断や」


 他の生徒たちは、そうだそうだと同調している。


「具体的には、超能力の有効利用方法や進路を相談する、大学の学生サポートセンターのような部屋の設置、超能力を活かした職業の斡旋、種類ごとに超能力を伸ばす訓練授業の拡充を早百合ちゃんに直談判や!」


 ――へぇ、琴石ってけっこうみんなのこと考えているんだな。


 最初はただの目立ちたがり屋かと思ったけど、そうでもないらしい。

 生徒たちから歓声が上がった。


「うぉおおおお、ライター程度の火しか起こせなくても輝ける学園生活ぅうう!」

「重力を0・1パーセント軽減さるだけでもいいじゃないかぁああ!」

「ひんやりさせる力の活用方法が知りたいぃいい!」

「ほのかに光るだけでも役立てる仕事をくれぇええええ!」

「鼻スタンガンを鼻雷撃に進化さたいぞぉおおお!」

「俺の微風で琴石さんをパンチラさせたいぃいい!」


 F6は琴石を支持しているらしい。

 でもなぜだろう、別に羨ましくない。


「ふん、地道な演説活動ご苦労ですわね」


 いつの間にか、俺の隣には貴美姉弟が立っていた。


「はにーくんおはよう」

「おう守方、おはような」


 守方は、今日も眠そうに目をこすりながら登校してきた。きっと、美方に色々と付き合わされているのだろう。


「おや、これはこれは美方さん」


 琴石は演説を止めて、美方に歩みよってきた。


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 振り返り企画 名場面


133話ゲート能力 より

 ハニー君と桐葉の前にバスタオル姿の真理愛が出てきてしまうシーン。


「あ、タオルが」

「真理愛。やっほー」

「わっ、ばかっ、桐葉!」

「え……」

 バスタオルを拾おうとかがんだ真理愛の無表情と、ぶざまにもあわてふためく俺の視線がかちあった。

 刹那、無機質な眼差しを作るまぶたが大きく持ち上がり、白い顔は目の下から鼻筋にかけて赤く染まり、愛らしいくちびるは硬く結ばれた。

 その反応の可愛さに、俺の邪心が加速する中、真理愛はその場に倒れるようにしてしゃがみこんだ。

「も、申し訳ありません、とんだ見苦しいものを! 今のは忘れてください。ですが信じてください」

 たぶん真理愛史上初めて、声を大にして言った。

「普段はもっと巨乳なんです!」

 ――何言ってんのこの子!?

 とりあえず、かなりテンパっていることだけはよくわかった。

「嘘ですすいません、虚偽の申告をしました。私は普段からDカップです今のも忘れてください」



 真理愛史上初めて声を大にして言った言葉が「普段はもっと巨乳なんです!」

 真理愛ちゃん渾身の虚偽申告。

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 5月2日に新しくギフトを頂きました。

 期待に応えるためにも面白い小説を書かねば。(漲るやる気)


 次回更新予定は5月16日月曜日です。

 お待ちの間、ヒマがあれば同じくカクヨムに投稿したエロハプ満載の

 【22世紀から猫耳少女が来ましたよ】全37話

 を読んでいただければ幸いです。

 決してハーレムラブコメエロハプ作品を再ブレイクさせたいなんて野望は抱いていませんよ!偶然そうなっても構いませんが!おや、こんな時間に誰かの足音が?

―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―

 本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。

 みなさんのおかげで

 フォロワー17894人 646万8520PV ♥99331 ★7510

 達成です。重ねてありがとうございます。

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