第225話 ちゅっ


 俺が膝を抱える腕に力を込めて耐えていると、桐葉は小悪魔のような笑みを浮かべて、幸せをかみしめるように身震いした。


「くそっ、俺をいじめて何が楽しいんだ!」

「うんとね、ハニーが困れば困るほど、愛を感じられて楽しいんだよ。えいっ」


 桐葉の手が額を押してきて、俺は体育座りポーズのままころんとベッドに倒れた。

 それからすぐにかけぶとんをかけてくれた。

 おかげで、俺は体育座りを解いて足を延ばしながら横向きになることで、体面を保つことができた。


「じゃ、おじゃましまぁす」


 少し声をひそめて、桐葉は布団の中に入ってきた。


「あ、ハニー、ボクの部屋から枕アポートして」

「お、おう……」


 言われた通りにすると、桐葉は俺の枕とくっつける形で枕を置いて、横向きに寝た。

 必然、俺と向かい合い、桐葉の艶顔が至近距離に迫って来る。


「ふふふ、こうして一緒に寝るのは初めてだね」


 甘い声でささやいてから、桐葉の手が俺の肩を抱き寄せてきた。

 桐葉の豊乳が俺の胸板に触れて、心臓が跳ね上がった。


 ――おっぱい、桐葉のおっぱい……。


 下がりかけた視線を必死に持ち上げると、今度は俺だけを映すハチミツ色の瞳を輝かせる桐葉の美貌が、俺を惑わせた。


 美稲と同じだ。


 ただ美人なだけなら、アイドル同様「ああ美人だね」で終わる。

 だけど俺は、桐葉の内面を知っている。


 坂東から俺をかばってくれて、俺を守るためにパワードスーツと戦ってくれて、俺と一緒にいられることを、宝物のように喜んでくれる桐葉を知っている。


 しかも俺らは両思いの恋人同士で、桐葉は俺との子作りを望んでいる。


 ここまでそろうと、桐葉の外見的魅力は俺を容赦なく恋に叩き落として、肉体的合併交渉を熱望してしまう。


 ――ああもう可愛い可愛い桐葉めっちゃ可愛いキレイ美人、もっと桐葉を感じたい。見るだけでなくて、五感の全てで桐葉という存在を余すことなく、奥深くまで味わい尽くしたいッ!


 そんな衝動に脳を支配されてしまう。

 桐葉の前では、文明人の理性も悟りの境地も意味を成さない。

 そのことを、嫌と言うほど理解させられた。


 ――せ、せめて視覚情報だけでもシャットアウトせねば。


「で、電気消して寝るぞ。おやすみな。『AIコン、電気消してくれ』」


 AIコンシェルジュ、通称AIコン(アイコン)に命令すると、天井の発光が抑えられた。


 暗闇よりも薄明かりの中で寝るのが脳に良いと解明された現代では、通電発光塗料を塗った天井を間接照明よりも暗い、月明かりモードにして寝るのが一般的だ。


 この部屋の照明設定もそれが標準設定なので、部屋は月明かりを思わせる程度の明るさになる。


 それが、あだになった。


 ――なにっ!?


 部屋が薄暗くなったことで、逆に甘い秘め事の雰囲気がかもしだされ、桐葉は月の女神のように美しくも、夜の女神のように妖しい魅力を放ち始めた。


 美人は何を着ても似合うと言うが、真正の美少女である桐葉は、明るくても暗くても魅力的だった。


 ――ぐっ、俺の恋人がエロすぎるぅ!


 しかも、視覚情報が制限されたせいか、肩を抱き寄せる桐葉の手の感触と、布団のなかを巡る体温、それに、彼女から香る甘い匂いが、より鮮明に伝わってくる。


 万策尽きた俺が苦しんでいると、月下の桐葉は笑みを深めた。


「ん~、どうしたのハニー? 顔がすっごく可愛いよぉ?」

「おま、全部わかっているだろ!?」

「うん、わかっているよ。こう、ね。ハニーを手の平の上でコロコロと転がすのが楽しいんだよ」


 手の平を上に向けて、手の上でボールを転がすジェスチャーをしてくる桐葉。


 それがまた可愛いのだけど、俺は悶々とした気持ちを抑え、必死に冷静を装った。


「お前、そんなに俺を困らせたいのか?」

「う~ん、困らせたいんじゃなくて、ボクに興奮して欲しいだけかな。あのね、ハニーがボクに興奮すればするほど幸せなの。あぁ、ボクって魅力的なんだなぁって自信がつくし、何より好きな人がボクにメロメロなのがわかって幸せなんだよ」


 好きな人、という単語に、内なる暗黒龍が咆哮した。


 自問した。

 これでもえっちしちゃ駄目なの?

 駄目に決まっている。


 子作りは計画的に行わねば、絶対に後悔するのだから。

 なのに、そんな俺の決意を挫くように、桐葉は迫って来る。


「はにぃ」


 完全に俺に抱き着き、仰向けに倒して、せっかくアポートした枕を放棄して、桐葉は俺の上に覆いかぶさってきた。


 ――ふぉおおおおおおおおおおおふぁああああああああああああああああ!


 桐葉の全体重をかけて、豊乳が押し潰れてきた。


 ブラに包まれることのないバストは、頂点の感触を無慈悲に自己主張させながら、俺の理性をゴリゴリと削り取っていく。


 前に、桐葉の裸を見たことがある。


 あの時は、性的興奮よりも、桐葉の裸を見てしまったという事実のインパクトが勝った。


 けど今は、ひたすら本能的衝動が突き上げてきて、理性をブチ破りそうだった。


「ぐっ、桐葉、頼むから逃げてくれ! もう俺は俺でいられない。もうすぐもう一人の俺が桐葉との恋人生活を台無しにしてしまうんだ!」


 理性崩壊の瞬間まで秒読みになったところで、俺は桐葉に哀願した。5。

 けれど、肝心の桐葉はキスの射程圏内で小悪魔を通り越した、大悪魔の笑みを浮かべるばかりだった。4。

 愛らしいくちびるが、淫らな形を作る。3。

「だいじょうぶだよはにぃ。だってね」2。

 刹那、俺の首筋にチクンとイタ気持ちい感覚が走った。1。

 抗えない眠気に意識を沈められ、体の感覚がなくなった。0。


 五感がひとつひとつ消えていくなか、最後に残った聴覚が何かを拾ったが、覚えていられる自信はない。



「ハニー、起きてるー? ふふ、ハニーの寝顔かわいい♪ じゃあハニー、今夜はいっぱい可愛がってあげるからね♪」ちゅっ



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 去年の12月1日から5か月+1日間連続で毎日更新をしてきた本作ですが

 誠に勝手ではありますが、以降は週一更新とさせて頂きます。

 次回更新は5月9日の月曜日です。(たわわ枠は狙ってないよほんとだよ)

 決してゴールデンウィークを楽しむためではありません。

 むしろゴールデンウィークだからフルに労働しに行かなくてはいけないのです。


 毎日更新を楽しみにして頂いた皆様には、重ねて謝罪申し上げます。

 お待ちの間、ヒマがあれば電撃文庫より発売の【僕らは英雄になれるのだろうか】の試し読み版+カクヨム用前日譚

 あるいは

 少しのバトルとハーレムラブコメエロハプ満載の

 【パワードスーツ女子高で最強少年兵がコーチをする】

 を読んでいただければ幸いです!

 決してハーレムラブコメエロハプ作品を再ブレイクさせたいなんて野望は抱いていませんよ!偶然そうなっても構いませんが!おや、こんな時間に誰かの足音が?

―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―

 本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。

 みなさんのおかげで

 フォロワー17748人 634万7429PV ♥97688 ★7460

 達成です。重ねてありがとうございます。

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