第209話 給料1200億円?
翌日の昼。
俺は学園の食堂で桐葉の作ったお弁当を食べながら、MR画面のメッセージに視線を落とした。
「給料1200億円て、実感ねぇなぁ……」
「完全に早百合さんが大臣になった影響だね」
「そう言う美稲はいくらになったんだ」
「4000億円だよ。ありがたく、アビリティリーグの発展のために使わせてもらうね」
「足りなかったら俺の給料も使ってくれ」
「その時は遠慮なく」
美稲はにっこりと笑った。
「でもハニーたちなら当然の額じゃないかな? 一人でそれぞれ日本のエネルギー問題と金属資源問題解決するぐらいなんだし。むしろ今まで少なすぎくらいだよ」
桐葉の冷静で的確な意見に、俺は同意した。
「だな。まぁ今までは経済破綻していたわけで、金が足りないのに俺らに高給払っていたら本末転倒だしな。けど経済再生したから、これからは適切な額を払えるってわけだ。いや、1200億円が適切なのかは知らないけど」
「ハニー。えっちなことがしたくなったらボクが全部応えるから、札束で女の子顔を叩くようなことはしちゃだめだよぉ?」
脳味噌を愛撫するように甘い声音で囁いてくる桐葉に、俺は空手チョップを寸止めした。
「するかよっ」
桐葉は頭を突き出して、チョップにデコタッチをしてきた。
桐葉のセクシーな笑みが、途端に幼くなる。
これが狙いだったのは知っている。
だからこそ、あえて寸止め空手チョップを放ったのだ。
「ハニーさん、私にも寸止めの手刀をいただけませんか?」
「え!?」
桐葉とは逆隣に座る真理愛が、コアなプレイを要求してきて度肝を抜かれた。
「……その、だめでしょうか?」
「いや、駄目じゃないけど……」
――別にお願いするようなことじゃないんだけどなぁ……。
「では、お願いします」
言って、真理愛はやや上を見上げ、静かに目をつむり、両手を胸の前で合わせて、キスを待つ乙女のように頬を赤らめ始めた。
――えぇえええええええ!? 何この状況!? そしてやっぱり美稲がRECしているぅううううううう!
「えっと、じゃあ、えい」
俺が軽く寸止めチョップをすると、真理愛はちょっとおでこを突き出して、自ら当ててきた。
それから目を開けると、両手を火照った顔に当てて、無表情を崩した。
「ありがとうございます。今のシーンを念写して待ち受け画像にします」
「ごめん、真理愛の琴線がわからない」
「ハニーちゃんハニーちゃん! シサエにも寸止めチョップして欲しいっす!」
「そうかそうかチョップが欲しいか、じゃあひとつ!」
「待つっすハニーちゃん! なんで肩をいからせながら大きく振りかぶっているっすか!? それ絶対に当てる気満々じゃないっすか!?」
「大丈夫大丈夫、マイナス5センチで止めるから」
「5センチめり込むっす! それはゴメンっす!」
叫びながら、詩冴は純白のツインテールをつかみ、鞭のように振るってきた。
正式に付き合うようになった俺らだけど、詩冴は相変わらずおバカをしてくれる。
俺も、急にしおらしくなられると対応に困るので、こうした態度はけっこう助かる。
そんな俺と詩冴のじゃれ合いを止めるように、茉美が難しい声を出した。
「美方のやつ、やっぱ苦戦しているわねぇ」
麻弥の口を拭いてあげていた舞恋が、茉美のMR画面を覗き込んだ。
「えーっと、中間世論調査? あ、琴石さんの支持率が32パーセントで美方さんが11パーセント、わからないと無回答が57パーセントだって」
アビリティリーグの恩があるので、一応、ここにいるメンバーは全員美方に投票している。
全校生徒1000人規模の学園においては微々たる差だろう。
それでも、身内票を入れても11パーセントは少なすぎる。
「みんなの反応を読むと、美方はアビリティリーグじゃカッコ良かったけど、生徒会長にするには不安、て感じみたいね」
茉美はMR画面をフリックしながら、眉根を寄せて眉間にしわを作った。
「逆に糸恋は……なんだかんだで頼りになる。やらかしに期待している。美方よりはいいと思う。これって支持されてんのかしらね?」
かなり微妙ではある。
が、理由はどうあれ、それこそなんだかんで美方よりも支持されているのだから、琴石の勝ちだろう。
アビリティリーグの恩がある俺としては、できれば美方に勝って欲しい。
――まぁ、ある意味、琴石にも借りというか、後ろめたい想いはあるのだけれど。
体育祭で、琴石のおっぱいに顔をうずめてしまったことを思い出してしまう。
――あれは事故だし、ノーカンだよな。うん、あれはノーカン、あれはノーカン、あれはノーカン。
「ほら姉さん、しっかり持たないとランチ落とすよ」
俺が自分に言い聞かせていると、守方のイケメンボイスが聞こえてきた。
思わず、俺らは一斉に同じ方向へ目をやった。
すると、食堂内の通路を、貴美姉弟が通り過ぎるところだった。
「いくら琴石さんの三分の一しか支持されていないからってダメージ受け過ぎだよ」
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本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。
みなさんのおかげで
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達成です。重ねてありがとうございます。
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