第210話 生徒会長選挙を支援しよう
「ほら姉さん、しっかり持たないとランチ落とすよ」
俺が自分に言い聞かせていると、守方のイケメンボイスが聞こえてきた。
思わず、俺らは一斉に同じ方向へ目をやった。
すると、食堂内の通路を、貴美姉弟が通り過ぎるところだった。
「いくら琴石さんの三分の一しか支持されていないからってダメージ受け過ぎだよ」
「べべ、別に、ワタクシは少しも気にしてなんかいませんわのことですでしてよ?」
「膝が生まれたての小鹿で涙ぐみながら言われても説得力がないよ」
「これは昨日ヒンズースクワットを千回した筋肉痛と花粉症ですわ!」
「今は10月で昨日姉さんはずっと机で勉強していたよね?」
――ぼろぼろじゃねぇか……。
見ているだけでいたたまれない気持ちと慈悲の気持ちが湧いてくる。
なんていうか、美方を見ていると雨の日どころか吹雪の日に捨てられた子犬を前にしているような気分になってくる。
これを助けない奴は地獄に堕ちて然るべきだろう。
「なぁ美方、俺でよければ手伝おうか?」
俺の存在に気づき、美方は一歩引いて警戒した。
「はっ! 貴方は淫獣! ワ、ワタクシに恩を売って何を企んでいますの!?」
「逆だ逆。俺はお前にアビリティリーグの恩があるからな。借りを返すってだけだ」
俺が気安く答えると、美方は葛藤するように口を真一文字に引き結んだ。
その耳元で、守方が囁いた。
「素直に協力してもらおうよ。こっちは恩を売った側だし借りを返してもらうだけなら少しも気にすることないし。ていうかこのまま琴石に負けたらそれこそエレガントじゃないし」
「そ、それもそうですわね。では奥井ハニー、ワタクシから受けた恩を返すことを許しますわ!」
ランチを載せたトレーを守方に預けてから、美方はびしっと俺を指さし語気を強めた。
守方は両手に一枚ずつトレーを載せて、ウェイターみたいだった。
落としそうで怖いので、テーブルの上にテレポートさせてから、俺は首肯した。
「おう、やれるだけやらせてもらうぞ」
――なんだこいつ可哀そうな奴かと思ったら滅茶苦茶偉そうだな……。
「ですが、これは借りを返してもらう当然のことなのですから、感謝はしてもお礼は言いませんわよ!」
――あ、こいつただのツンデレだ。顔赤いし。視線逸らしているし。
「お礼は心の中だけで十分だよ」
俺が苦笑すると、守方が前に進み出てきた。
「ありがとう。じゃあはにーくん、姉さんと連絡先交換してくれないかな?」
「なっ、貴方なにを勝手に!」
「だっていちいち僕が間に立つの面倒じゃない」
「ですがこんな淫獣とワタクシが直接連絡を取るなど、頭を下げてお願いされないと許しませんわ」
——頭下げたら教えてくれるんだ……。
美方が顔を赤くしてそっぽを向くと、守方が俺らにこっそりと耳打ちしてくる。
「みんな、悪いんだけど、姉さんと連絡先、交換してくれないかな?」
その声はいつになく真剣で、秘密のお願い感がひしひしと伝わって来る。
「姉さん友達が少ないんじゃないんだよ。本当にゼロなんだよ。さすがに僕もいたたまれないし、これをきっかけに友達を作ってあげたいんだ。あれで姉さん、本当はツンツンツンデレなだけで悪い人じゃないんだよ」
美方を一瞥すると、彼女はそっぽを向いたまま、チラチラと横目で俺らの様子をうかがっていた。
「アビリティリーグで戦った日から家じゃ毎日三回はあの日の話題を振って来るし、はにーくんが頼んできたらまた協力してあげてもいいとか楽しそうに言うんだよ」
――幼稚園児か!
「でも姉さんプライドの塊だから自分から言えないし、お願いされたから仕方なく友達になってあげる、みたいな形が欲しいんだよ。だから慈悲と奉仕とボランティア精神でなんとか頼めないかな?」
「お前よく実の姉をそこまで貶められるな?」
「弟だから貶められるんだよ?」
眠そうな真顔で言い切った。
こいつはきっと、大物に違いない。
実際、なんだかんだで桐葉たちがMR画面を展開して連絡先の交換準備を始めた。
最終的には守方の狙い通りなわけだ。
――まぁ、別にいいか。
「美方。頼むから俺と連絡先の交換してくれないかな? またアビリティリーグのことで頼むことがあるかもしれないし、美方と直接連絡取りたいんだよ」
「♪ しょ、しょうがないわねっ! どうしてもと言うなら高級国民であるワタクシが慈悲と奉仕とボランティア精神のノブレスオブリージュで連絡先を教えてあげてもいいですわよ!」
顔を真っ赤にして嬉しそうに肩をウキウキさせながらMR画面を展開し始めた。
――なんだろう。ここでこの子は俺が守らないと駄目な気がしたら負けな気がする。
複雑な思いを抱えつつも、俺らは美方に協力することになった。
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本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。
みなさんのおかげで
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達成です。重ねてありがとうございます。
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