第174話 転売ヤー対策は万全だけど別の問題が
「電子チケットの改ざんは不可能だ。他人への譲渡も禁止している、だが、問題は他にある」
早百合次官は声を険しくした。
「ネット上の反応を調べたところ、不埒な輩が湧く可能性が出てきた。くれぐれも貴君たちは調べてはいけないが、異能学園の生徒を性的な目で見る書き込みが散逸される」
その言葉に、俺を含めた全員が顔色を変えた。
「無論、そんな輩はごく一部、いわゆるノイジーマイノリティだろう。だが、倍率100倍のチケットに、そうした連中が当たらないとも限らん。それ以前に、大勢が集まれば自然、馬鹿も集まる」
鋭く人差し指を立て一言。
「千人集まれば千人にひとりの馬鹿が、一万人集まれば一万人にひとりの馬鹿が湧く。それが人間だ」
もっとも過ぎて至極わかりやすい理論に、俺は頭を悩ませた。
俺は知っている。
人間の醜さを。
桐葉たちのおかげで、しばらく人間関係のぬるま湯に浸かっていたから忘れていたけれど、人間は大なり小なり【自分中心他動説】の性質を持つ。
せっかくの学園祭なんだからいいじゃんこれぐらい。
という手前勝手な理由で女子生徒を盗撮したり、強引にナンパしたり、触ろうとする一般客がいないとも限らない。
いや、中には【超能力者】というブランド目当てで、非戦闘系の女子をたぶらかす輩もいるだろう。
俺の彼女超能力者なんだぜ、と言いたいがためだけに女子生徒を口説く男の姿が、ありありと想像できた。
――モラル由来の問題っていつになったら無くなるんだ?
頭痛に耐えるように、眉間にしわが寄ってしまう。
すると、固くなった眉間に人肌が触れた。
眼を開けると、桐葉が人差し指と中指の第二関節を押し当てぐるぐると丸を書いている。
「ほぐれた?」
愛らしいほほ笑みに、胸がキュンとした。一日中でもこうして欲しい。
そして詩冴がこれでもかと眉間にしわを寄せていた。でも桐葉が無視しているとソファを指でいじりながらいじけ始めた。
その姿は、珍しくちょっと可愛かった。
「じゃあ悪党は全部俺がテレポートするってことで」
「どこにテレポートするのだ?」
「それは……」
言われてみれば、悪党をテレポートさせた先が迷惑だ。
まさか、全員下水道に叩き込むわけにもいかない。
「え? 下水道シュートするんじゃないんすか?」
「え? 東京湾に沈めるんじゃないの?」
「え? ボクは護衛だしハニーに手を出す奴はミンチだよ?」
――詩冴と茉美と桐葉が怖すぎる……。
「ハニーさん、では折衷案として犯人の全個人情報を私が念写すると脅すということで手を打ちましょう」
「罪と罰のバランスがエグイなおい」
「では、顔に恥ずかしいイレズミを念写すると脅すのはどうでしょうか?」
「え? 念写って人体にもできるのか?」
「できると思います?」
「それって消えるのか?」
「レーザー治療をすれば消えると思います」真顔
「それは消えると言わねぇよ!」
――駄目だ。真理愛がポンコツ過ぎて目を離せなさ過ぎる!
俺が絶望感に打ちひしがれていると、美稲が溜息を吐いた。
「でもまさか、超能力者がここまで人気になるとは思わなかったね」
「貴君らの活躍とアビリティリーグのおかげで、超能力者のイメージは快復した。が、そのせいで良くも悪くもアイドル化してしまったのだ。しかし、恐れられ差別、迫害を受けるよりは遥かに良い。問題は、健全な運営方法だ」
「ですね。とにかく俺は連絡さえ貰えれば学園のどこにも飛んでいくんで、学園の共有グループを作成してください。呼び出しが入ったら駆けつけます。迷惑客のテレポート先はおいおい考えましょう」
「助かる」
「じゃあそろそろ警察班を警察署に送る時間なんで、真理愛たちは……あ」
そこで俺は、あまりにも単純すぎることに気づいた。
「警察署の留置場、借りられないか?」
俺の提案に、舞恋が唸った。
「う~ん、どうだろう。留置場は本来、被疑者や被告人を収容する場所だから。他の用途で貸してくれるかなぁ」
その疑問には、早百合次官が鋭く答えた。
「いや、生徒の写真を勝手に取るのは肖像権の侵害及び盗撮、触る行為は痴漢、強引なナンパは迷惑防止条例、他、特定の事柄を強要するのは強要罪だ。世間が無視しがちなだけで、迷惑行為の多くは立派な犯罪だ。留置場を使うのは問題ないだろう」
「よし、じゃあ一緒に警察署に頼みに行くか?」
「うん」
「そういうことなら、私も一緒の方が話が早いだろう」
舞恋が頷くと、異能省トップ、龍崎早百合事務次官様は椅子から立ち上がり、スーツの襟を正した。
――権力バンザイ。
心の中で、ぐっと親指を立てた。
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本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。
みなさんのおかげで
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達成です。重ねてありがとうございます。
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