第173話 学園祭のチケットは倍率100倍!
翌週の9月16日の日曜日の昼前。
俺らは、総務省から独立した、異能省のビルを訪れていた。
三階までが吹き抜け構造で噴水がゴージャスなエントランスを抜けて、ガラス張りのエレベーターに乗ると、俺はMRダイアログから30階をタップした。
麻弥と舞恋、茉美や詩冴はエレベーターの景色を眺めて楽しそうだった。
「しっかし、随分と立派なビルだよな。他の省庁から嫉妬されないか?」
俺の疑問に、美稲が淡々と答えた。
「三年前に竣工したばかりの新しいビルだからね。日本が経済破綻した時に空いて以来、借り手がつかなくてオーナーさんもお手上げ状態だったらしいよ」
「異能省の創設は渡りに舟ってわけか。それにしても悪いな、なんか俺の仲間ってだけで休日にまで働かせて」
日本の中核を担う俺ら超能力者の仕事に休みは無い。
他の生徒たちは交代制だが、俺ら8人は半日とはいえ、休日でも仕事をしている。
けれど、俺の謝罪に、舞恋は両手を左右に振った。
「ううん、逆だよ。わたしは四天王でもユニークホルダーでもないのに、ハニー君のお友達っていうだけで中心人物みたいな扱いされて、ちょっと気後れしちゃう」
日本に一人ずつしかいない【テレポート】使いの俺、【リビルディング】使いの美稲、【オペレーション】使いの詩冴はユニークホルダーと呼ばれ、そこへ世界最強の【念写】使いである真理愛を加えた四人は、世間から四天王と呼ばれている。
一方で、舞恋は大勢いる警察班の中のひとり、というポジションだ。
「そんなこと言ったらボクだってただの護衛だよ?」
「桐葉は戦闘班最強でしょ。茉美は医療班のエースヒーラーだし、麻弥は可愛いし」
舞恋の隣で、麻弥がむんと胸を張る。
その顔は無表情ながら、ペカーっと自信の後光を放っていた。
――麻弥、今のでいいのか? それでいいのか?
「それなら舞恋だって可愛いだろ? そんなに自分を卑下するなよ」
「か、かわいぃ」
舞恋は赤面してうつむいた。
「ほら着いたぞ」
チン、と電子レンジみたいな音と共にエレベーターが止まると、俺は廊下に出た。
麻弥が近づいてきて、またいつものように足を蹴るか顔を叩いて来るかと思ったら、何故か手をつないでくれた。可愛い。
◆
三度のノックのあと、ドアの向こう側から入室を促され、執務室に入った。
すると、早百合次官は全面ガラス張りの窓に向かって佇み、俺らに背中を見せていた。
「君には失望したよ」
――えっ!?
ドキリと心臓によくない衝撃が走ったところで、早百合次官は悪い笑顔で振り返った。
「ふふふ、一度やってみたかったのだ」
「子供ですか?」
初めて会った時はもっとこう、戦国武将みたいな凛々しさがあったのに、最近はどんどんお茶目になっている気がする。
どこから悪い影響を受けたんだろう。
「ハニーちゃん、なにゆえシサエの顔を見るっすか?」
俺ら8人が勢ぞろいすると、早百合次官は執務机の席に座り、俺らにも着席を促した。
今回の執務室には、机の前にテーブルとソファが用意されていた。
「仕事先へ行く前に話ってことは、何かまた問題が起きたんですか?」
俺らが思い思いの場所に腰を下ろすと、早百合次官は表情を引き締めて語り始めた。
「うむ、学園祭についてな。超能力者への理解を深めてもらうべく、一般客も入れるのは知っているな?」
「はい。担任の鶴宮先生から聞きました」
「OUの刺客が潜入しないよう、希望者は事前に氏名や住所を記入の上、マイナンバーの照合を行い電子チケットを発行。当日は本人確認をしたうえで入場することになっている」
「へぇ、厳重でいいですね」
俺は思わず喉を唸らせた。
だけど、俺らの命と身柄をOUが狙っている以上、当然の処置だろう。
学園祭にOUからの刺客が紛れ込んでいる可能性は高い。
しかし、俺が感心する一方で、早百合次官の表情は暗かった。
「だが、希望者が殺到し過ぎて受け入れ可能人数の100倍以上の申請が来ているのだ」
「そんなにですか!?」
軽く素っ頓狂な声をあげてしまった。
いくら今、話題の異能学園とはいえ、ただの学園祭だ。
何万という人が来たがることが、信じられなかった。
「おかげで発行は抽選。倍率100倍の超プラチナチケットになってしまった。どうやら、我々は超能力者の人気を侮っていたらしい」
「あの、それって転売ヤーが出る可能性ありますか?」
かつて、人気漫画の最終話を掲載した号の雑誌はいつもより多く刷ったがまるで足りず、ネット上で高額転売された、という話がある。
需要を見込み違いしたという点で、今回も同じことが起こらないとも限らない。
「電子チケットの改ざんは不可能だ。他人への譲渡も禁止している、だが、問題は他にある」
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本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。
みなさんのおかげで
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達成です。重ねてありがとうございます。
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