第172話 もうバストアップを恐れることはないんだ!
その日の夜。
夕食を終えた俺ら8人は、リビングで撮影画像を眺めながら、クラスのみんなに提出する素材を厳選して盛り上がっていた。
「うぉおおおおお、みんなが可愛すぎるっすぅううううう!」
「麻弥さんは可愛いですね」
「えへん、なのです」
相変わらず詩冴が騒がしく、真理愛は麻弥を膝に抱いて、ツーサイドアップの髪で手でもてあそんでいた。
舞恋は目を皿のようにしながら、胸が大きく見える画像が一枚もないことを確認してから安堵して、やり切った顔をしていた。
――今日の舞恋は忙しいな。そんでやっぱりみんな可愛いな。
桐葉も、美稲も、舞恋も、真理愛も、麻弥も、茉美も、詩冴も、こうして画像越しに見るとアイドル顔負けの美少女ぶりで、ツインテールにした白い髪と肌、赤い瞳がオンリーワンの存在感と魅力を放っている。
冗談抜きで、この7人をアイドルグループとして売り出したら、天下を取れそうな気がしてきた。
――そしてこのうちの3人が未来の嫁なんだよな……。
最近は感覚が麻痺してきたけど、半年前の俺からは考えられないリア充ぶりだ。
「はふぅ、だけどこのうちキリハちゃんとマリアちゃんとマツミちゃんがハニーちゃんに攻略され済みという現実が奇跡っすね。まさにラノベ主人公」
深いため息をついて、しみじみと語る詩冴の尻馬に、桐葉も乗っかった。
「そうそう。特に茉美がハーレム入りしたのは意外だったよね」
「そうっすよねぇ。散々あれだけ誰よりもハニーちゃんをシバき倒してアンチエロだったくせにしっかりと嫁ポジションに収まるんすから」
「ちゃっかりしているよね」
「ちゃっかりなんかしていないわよ! ていうかあたしは別にこんな奴」
チラ ぐっ。
「大好きよ! 何か文句ある!? 殺しなさいよ!」
真っ赤な声で叫んで、大の字になって絨毯の上に寝転がった。
――はぐっ!
あまりに可愛すぎて、つい襲いたくなってしまった。
「前かがみになるなぁ!」
音速の鉄拳が飛んできた。が、三センチ弱手前で失速。ぽすん、という擬音語を感じる優しさで俺の胸板に押し付けながら、茉美は濡れた瞳でくちびるを尖らせた。
「そういうのは……18歳までナシなんだからね……」
――尊い!
俺が嫁の尊さに浸っていると、地獄の三丁目から這い出してきたように邪心まみれの声が、背後から迫ってきた。
「DFHカップとひとつ飛ばしでそろいましたし、ここは穴埋めのためにもEカップでツインテールが可愛いアルビノ女子などひとつどうでげしょ?」
「そうだな。じゃあ穴埋めのためにGカップの舞恋を嫁にするか」
「じ、Gカップじゃないもん!」
「全国のみんなが知っているのに何を今さら」
舞恋の体が劇的に崩れ落ちた。
その肩を桐葉が叩いた。
「大丈夫だよ舞恋。つまり今後、どれだけ成長しても日本中の人は舞恋をGカップ止まりだと思ってくれるんだから」
舞恋の顔がパッと明るくなる。
「そっか、わたしもう胸の成長を恐れなくていいんだ。よかった」
――幸せそうで何よりだ。
「そうっす、舞恋ちゃんはどうせすぐHカップになるっす、だからここはシサエを」
「じゃあ美稲を嫁にしようかな」
「あら嬉しい」
「なんでかたくなにシサエを拒むんすか!? すかすか!」
詩冴はプンスカと怒り、左右のツインテールをムチのように振るいながら抗議してくる。
「シサエなら18歳未満でもラストステージまで応えられるのに! 今すぐユニコーンライダーからバイコーンライダーにジョブチェンジできるのに!」
「お前はもっと自分を大事にしろい」
俺が冷たく詩冴を叱ると、桐葉が妖しい流し目を送りながら肩を寄せてきた。
「ボクもハニーの最終形態暗黒龍をラストステージまで受け入れられるよ」
「ぐふぅっ!」
不意打ちかつ会心の一撃に、心の中で黒ひげ危機一髪が飛び出した。
「い、今はほら、まだふたりのイチャラブメモリーが足りないから。子供ができたらもう一生いまの俺らには戻れないから、ね」
「へぇ、そんなにボクのこと考えてくれているんだ。うれし♪」
桐葉の両腕に抱き寄せられ、彼女の甘い匂いと感触に幸せ成分が止まらない。
でも実際、大きな問題だと思う。
子供が生まれたら子供が成人するまでは二人きりの時間がないのか? 違う。
子供が独り立ちしても、子供は大丈夫だろうか、元気だろうか、そんな気持ちが必ず生まれるだろう。
他人のことなんて考えず、わき目もふらずにお互いのことだけを想い合えるのは、子供が生まれる前のいまだけなんだと思う。
「と、ハニーさんは考えています」
「その言葉、ハニー君がハーレムを作らなければカッコ良かったのに」
「ひ、ひとりひとりに対して同じことをするつもりだから! ていうか真理愛は俺の心を念写するな!」
「美稲さんが望まれ、私も気になりましたので。ですが安心しました。やはりハニーさんは、私のことも考えてくれているのですね」
言って、真理愛はそっと俺の膝に寄り添ってきた。
すると、茉美が負けじと無言で桐葉とは反対側から俺に抱き着いてくる。
思春期には辛すぎる状況に、俺がどこと言わず、全身を硬くしていると、美稲が苦笑を漏らした。
「なんて完成された上下関係。あれがハーレムの秘訣なんだね」
「ふゃぁぁぁ……」
「こら美稲、舞恋に変なことを教えるな!」
「でも否定できないでしょ?」
「ぐっ」
美稲の図星攻撃に、俺は反論を飲み込んだ。
ハーレムと言えば男が女を支配し侍らせていると社会は思いがちだろう。
だが現実は、男性が女性陣の可愛いペットになっているだけである。
「ふふ、ハニー、今夜もたくさんいい子いい子してあげるね」
「でしたら私も」
「い、いいこいいこならあたしだってしてあげるわよ!」
「見て舞恋さん、麻弥さん、あれが日本のハーレム王だよ」
「ふゃぁぁぁぁ……」
「みんなハニーのことが大好きなのです」
「ぐぅうううう! ハニーちゃんが羨ま死過ぎて暗黒面に落ちる寸前っす! ハニーちゃん、今すぐモゲて爆発して欲しいっす! ぶちん、ドッカーンと!」
「どこをだよ!?」
手足をバタつかせて床を転がる詩冴に、俺は空手チョップのジェスチャーを浴びせた。
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本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。
みなさんのおかげで
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達成です。重ねてありがとうございます。
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