第163話 愛すべき奈良県民
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『さて、体育祭も残すところあと二種目。ここで、現在の得点ランキングを見てみましょう!』
スタンド席下のフィールドでその放送を聞きながら、俺と桐葉たちは余裕の気分だった。
「まっ、俺らの圧勝だろうな」
「ボクらで一位取りまくったからね」
「みんな頑張ったのです」
今日もツーサイドアップがちっちゃ可愛い麻弥に手を引っ張られて、俺はしゃがんだ。
そうすると麻弥が俺の頭を両手ですりすりとなでてくれるので幸せな気持ちになれる。
『一位は545点で1年2組! そして二位は541点で1年1組です!』
「なんでっすかぁああああああああああ!?」
詩冴と中心に、茉美や美稲、舞恋たちが驚きの声を上げた。
「いやおかしいだろ!? 綱引きも玉入れも借り物競争も俺らの優勝。徒競走だって俺と桐葉が一着、タイヤ引き競争も茉美が一着だっただろ!? まさか美方、お前の仕業か!?」
「えぇ!? ワタ、ワタクシは何も、してませんわよね?」
「うん。姉さんの猿知恵は全部ものの見事に華麗に綺麗さっぱり失敗したよ」
「ほら、やっぱりワタクシのせいではなくてよ!」
何故かドヤ顔の美方。
――守方、もうそいつずっと気絶させといてくれないか?
「でもじゃあ何が原因なんだ?」
俺の自問に、近くにいたF6があごをなでで、探偵のように鋭い顔をした。
「う~ん」
「なんでだろうなぁ?」
「みんな頑張っていたのに」
「まぁ、あえて言うなら」
「俺ら6人がパン食い競争と二人三脚と障害物競走とムカデ競争と大玉転がしでビリになったぐらいかな」
「俺も麻弥たんになでられたい」
「明らかにアンタらのせいでしょうが!」
茉美のドロップキックがF6をボウリングのピンのように蹴り飛ばした。
その様子を、美方と琴石は嘲笑してくる。
「オーホッホッホッ。どうやら優勝は我々2組のようですわね!」
――お前は1組だけどな。
「せやせや。これで学園祭ホームページ1ページ目の先頭はウチらの世界毒生物展で決まりやんなぁ!」
美方の笑みが引きつった。
「え? 貴女たちの出し物って毒生物展ですの?」
「せやよ。クモ、ハチ、サソリ、ヘビ、他にも毒々しい見た目の毒生物が目白押しや。協力してくれたお礼に美方さんには毒蛇のえりまき体験やサソリの手乗り体験さしたるから、楽しみにしてなぁ♪」
青ざめた美方は冷や汗をかきながら膝を震わせ、顔には絶望と後悔の念が溢れていた。
――遅ぇよ。
◆
それから俺らは、グラウンド中央の芝生へ集まった。
これから、セミファイルなるの騎馬戦だ。
「つっても2組とは4点差。セミファイナルとファイナル種目で勝てば逆転だ」
俺と一緒に騎馬戦に出る予定の生徒が力強くガッツポーズをした。
そして美方は鬼気迫る顔で俺の胸ぐらをつかんできた。
「いいですこと奥井淫獣育雄! たとえ非合法な手段に打って出ても必ずその手に勝利をつかむのです! でないとワタクシの首がヘビに、手の平がサソリに!」
「姉さんは虫と爬虫類が大の苦手だからなぁ」
「何かあったのか?」
俺の問いかけに、守方は頬をかきながら苦笑した。
「子供の頃、クモの巣にいたずらしたらクモの卵が顔に落ちてきて孵化して姉さんの顔中に蜘蛛の子がぶわぁーっと」
その時のことを思い出しているのか、美方は青ざめながら白目を剥いて肩を震わせた。
琴石がクモの姿になっている時、気絶していてよかったなと思った。
「ハニー、そろそろ始まるから早く乗って」
「おう悪い悪い」
言って、俺は靴を脱ぐと、桐葉を先頭に詩冴と茉美で作った騎馬に足をかけた。
みんなの手をあぶみがわりに足を乗せて立ち上がると、ちょうど向かい合う琴石の騎馬と目が合った。
「てぇっ、いちびるなや! なんで男子が騎手なんや。力の強いもんが馬をやれや!」
「いや、だから力の強いやつが馬になったんだけど?」
「ボクはハチだし」
「シサエは柔道黒帯っす」
「あたし中学の時、総合格闘技ジュニアチャンピオンだったわよ」
「ホンマやん! こんの正直者ぉ!」
「え? ありがとう?」
『ではセミファイナル! 騎馬戦スタートです! なお、奥井ハニー育雄くんのテレポートで鉢巻を取るのは禁止とさせていただきます』
――直前にそういうこと言うなよ。
開始の合図と同時に、琴石の騎馬がまっすぐ、俺らに向かってきた。
「いくでぇ、この色男ぉ!」
「お前はもっと悪口の練習をしろ!」
俺らは逃げず、琴石の挑戦を受けて立った。
すると、琴石が怪しく笑った。
「かかったわ。喰らえ、ウチの毒霧を!」
琴石が両手を突き出すと、指先から薄紫色の霧が噴射された。
「うわっ!?」
「ハニー!」
すかさず、馬役の桐葉たちは下がってくれるも、不意打ちだったため、俺は少し吸い込んでしまった。
「お前、相手に直接攻撃するのは反則だぞ!」
「【攻撃】したらな。せやけどこれは攻撃やあらへん。ウチが使うたのは催淫毒。桐葉たちをはべらす男前のハニーを腰砕けにする平和なもんや」
「なっ!? くぅっ!」
琴石の言う通り、俺はこんな大事な状況にもかかわらず、邪心がうずいた。
Y染色体由来の衝動が下半身をかけめぐり、辛くなってきた。
これでは、試合に集中できない。
「さらに! 鳴芽子!」
「はいはーい♪ 地面の摩擦ゼロ!」
途端に背後の詩冴と茉美が転んだ。
必然、馬は崩れ、俺も背後に倒れてしまう。
――まずい!
無重力感と共に視界が縦に回り、空が正面に来た。
「ハニー!」
けれど、頼もしい声と共に、俺の体はお釈迦様の手に救われるようにすくい上げられた。
視線を落とせば、桐葉ひとりで俺を肩車して、空を飛んでくれていた。
「ありがとう。助かったぞ桐葉!」
「うん。さぁ、ここからはボクとハニーで空中戦だよ!」
桐葉が闘志を込めた声で気合いを入れると、琴石が獰猛に笑った。
「逃がすかいな!」
琴石の両手から幾重もの糸が放たれ、俺に絡みついた。
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本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。
みなさんのおかげで
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達成です。重ねてありがとうございます。
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