第162話 借り物競争ていうかヒロイン借り競争
『さぁ、体育祭も後半戦! 続いての競技は借り物競争です!』
体育祭実行委員のアナウンスに従って、各クラスの代表者走者がスタート位置についた。
1年2組は琴石で、うちのクラスからは俺だ。
俺なら借り物札の場所まで一瞬でテレポートして、借り物をアポートで用意できる。
この勝負、一着は俺しかいないだろう。
スタートの合図とともに、俺は借り物札の落ちている場所までテレポート。髪間を入れず、琴石の指先から放たれた蜘蛛糸が、俺の隣の借り物札を取った。
――早いな。けど、俺ならどんなものでもアポートで……え?
「な、なんだ、これ?」
俺が手にした札には、Gカップ、と書いてある。
読み間違いかと、何度も札を確認する俺の横を、琴石が走り去っていく。
「美稲、ちょいとウチに付き合ってぇな」
「え? 私?」
美稲の返事も聞かず、琴石はクモの怪力で美稲をお姫様抱っこすると、そのままゴールへ一目散だった。
「オーホッホッホッ! 淫獣、破れたりですわ!」
何故か、スタンド席の最前列で、美方が高笑っていた。
「1年1組の体育祭実行委員はこのワタクシ、貴美美方ですわ!」
そういえばそうだっけ、と俺は無関心に思い出した。
「ワタクシは体育祭実行委員の権力をフル活用! 借り物札にGカップと書いたものを二枚用意し、一枚は貴方のレーンに、もう一枚は琴石さんのレーンに用意致しましたわ! そして淫獣の知り合いにGカップはただひとり! 内峰美稲さんだけ! つまり、これで貴方のゴールは不可能ですわ! 悔しければGカップの知り合いを連れてきなさいな!」
「姉さん、女の子があまりGカップって言わない方がいいよ」
弟の守方に注意されても、美方は高笑い続けていた。
馬鹿は放っておきたいも、美方の言う通りだ。
Gカップホルダーなんて、そうそういるものではない。
「ごめんハニー、ボクも中学生まではGカップだったんだけど」
「うむ、私も中学生まではGカップだったのだがなぁ」
「早百合次官までいつの間に……」
――でもどうする? 実際のところ当ては、まぁ一人だけいるんだけどでもだけどあいつに頼むわけには……。
「オーホッホッホッ。これで2組の勝利! 淫獣の負けですわぁ!」
美方が有頂天になって哄笑した矢先、その声は聞こえた。
「わ、わたしが行きます!」
声の主は、胸元でちっちゃく握り拳を作る舞恋だった。
頬は赤く、だけど愛らしい眉をせいいっぱい引き締めている。
「え、いや、でも舞恋お前」
舞恋は、自分の大きな胸がコンプレックスで、胸を小さくみせようとしている女の子だ。
なのに、全校生徒が注目する場で本当のバストサイズをバラすなんて、俺にできるわけがない。
なのに、舞恋は覚悟を決めた顔で、決然と声を上げた。
「ハニーくん! サイコメトリー能力しかないわたしはいつもみんなの役に立てなかった。伊集院くんの時も、アビリティリーグの時も、でもね、わたしだって、みんなの役に立ちたいんだよ!」
その言葉が俺の胸に強く響いて、深く反省した。
舞恋の言う通りだ。
俺は、彼女のことを心配するばかりで、守ろうとするばかりで、きっと対等には見ていなかったんだ。
桐葉たちを守るために俺が身体を張ったように、舞恋だった俺らのために体を張りたいんだ。
「ああ、行こうぜ舞恋!」
「うん!」
俺と視線を交えた舞恋が大きく頷くと同時に、俺は舞恋ごとゴールへテレポートした。
すぐ背後から琴石の悲鳴が聞こえた。
「んな!? なんで、あんたに美稲以外のあてなんて!?」
「いるんだよもう一人。俺の仲間、恋舞舞恋がな!」
俺は両手で舞恋を指して、自慢げに見せびらかした。
途端に、琴石は鼻であざわらった。
「ふん、脅かすなや。どう見たかてその子はせいぜいがFカップやないの」
『おーっとここで物言いだぁ! 皆様に解説しましょう! 琴石糸恋さんと奥井ハニー育雄くんの引いた借り物札は奇しくも両者Gカップ! そして先にゴールしたのはハニーくん! しかし! 連れてきた恋舞舞恋さんがGカップでなければゴール不成立! 一着は2組の琴石さんのものになります!』
ゴールに控えていた体育祭実行委員の女子がメジャーを取り出した。
舞恋を訝しむその目は、戦時中の検閲官かと思う程に鋭く、迫力があった。
「計測します」
けれど、舞恋の表情は揺るがない。
「舞恋」
「うんっ」
舞恋はランニングシャツの背中に手を入れると、パチンと音を鳴らした。
途端に、舞恋のバストがタプンと、一回りサイズアップした。
「「なぁっ!?」」
琴石と計測員が、あんぐりと口を開けて固まった。
琴石にお姫様抱っこされる美稲は、どうだ見たかとばかりに得意げだ。
計測員がおそるおそる舞恋のアンダーバストとトップバストを計測した。
アンダーバストは65センチ。
トップバストは90センチ。
その差、実に25センチ。
男の俺は、何センチで何カップかは知らない。
でも、計測員の顔色を見れば、結果は一目瞭然だ。
計測員の女子が、両手で大きなな丸を作った。
『成立ぅううう! 一着は、1年1組、奥井ハニー育雄くんです!』
「だからハニーじゃねぇっての!」
「ハニーくん、やったね」
抗議をする俺の胸板に、舞恋は笑顔で飛びついてきた。
彼女らしくないテンションの高さに、ちょっとびっくりだ。
でも、そんなびっくりはさらなるびっくりに上書きされてしまう。
「ままま、舞恋、ズレてるから、ぐぅううう……」
今、舞恋はブラジャーのホックを外している。
そしてどうやら、俺に飛びつくときの反動で、ブラが落ちてしまったらしい。
俺の胸板では、あまりにもなまなましすぎる低反発力が、これでもかと自己主張してきていた。
しかも、その中央では、ちょっと硬めの、ツンとしたグミのような感触もある。
「え? ……ふゃっ!?」
舞恋は大きな胸を両腕で抱き隠しながらしゃがみこんでしまった。
それでもなお、俺の胸板からは舞恋の残滓が消えなかった。本当に、すさまじい存在感だ。
スタンドからは、クラスに関係なく、男女関係なく、Gカップコールが鳴り響いた。
『皆様落ち着いてください! 事前に告知した通り、体育祭の様子は生中継されています! Gカップと言わないでください!』
「そういえばそうだったなぁ」
「え!? これ全国に放送されているの!?」
しゃがんだまま赤面を上げた舞恋が、目を丸くして固まった。
「あれ? 知らなかったのか? プログラム表に載っていたろ?」
「あぶゃっ!」
謎の悲鳴を上げて、舞恋は鼻血を流しながらドサリと倒れた。
「わ、わたしのカップサイズが……ぜんこくのお茶の間に……」
うわごとを呟きながら痙攣する舞恋に、俺は黙とうを捧げた。
琴石は慌てた様子で、
「き、気にすることあらへん。ウチなんて全国放送でHカップて叫んでもうたんやよ! な? な? な?」
――駄目だ。琴石が底無しにいい奴すぎて何も言えない。うちの美方と交換して欲しい。
選手のトレードを熱烈に希望してしまう俺だった。
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舞恋のバストサイズが全国に晒された展開がイヤだという人はゴメンナサイ。だけど172話で起死回生するというか、舞恋ちゃん自身が納得して笑顔になるのでそこまでは読んでくれると嬉しいです。
ヒロインの中でも出番が少なくて目立たない舞恋ちゃんに愛の手を……。
個人的にもできるだけ活躍させてあげたいんですけどね。うん。だけど真理愛の能力が強すぎてサイコメトリーの出番が、すいません。――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
前話で、超能力で作った綱をテレポートできるのかという質問がありましたので解説。
糸恋の綱は物質として確立しているのでできます。
つまり同じ超能力でも一定時間経ったら消えるものは超能力物質なのでテレポートできません。
桐葉のハチミツみたいに食べて栄養にできるもの、超能力由来だけど一定時間経っても消えないもの、なんなら能力者本人の意思でも消えない物はテレポートできます。
OUのパワードスーツがテレポートできないのは、そもそもコピー能力について詳しく説明されていなかったと思うのですが、コピー能力のコピー品は一定時間経つと消える上に同時に出せるコピーも限られています。
桐葉が最終形態でもテレポートできることについては、まず桐葉は全身鎧ではなく露出部分があるのでテレポートできる。
ハチの外骨格ごとテレポートできるのは、ご都合主義で言い訳になりますが、外骨格が桐葉の体の一部と判定されているか、桐葉自身がハニーくんにテレポートされることを許容しているからだと思われます。
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本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。
みなさんのおかげで
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達成です。重ねてありがとうございます。
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