第161話 ハチ女子VSクモ女子


 言うや否や、琴石の額から丸いエメラルドのような瞳が浮き上がり、両手脚が黒い甲殻に覆われていく。


 彼女の豊かなヒップラインから光のグリッド線が奔り、巨大な蜘蛛を形成した。


 蜘蛛はテクスチャを張られるように色と厚み、質感を得て実体化。


 琴石はまさに神話のモンスターアラクネを彷彿とさせる姿へと変貌を遂げた。


 ただし、蜘蛛の頭から女性の上半身が生えているのではなく、蜘蛛の頭に座る女性に見えるため、モンスター感は無い。


 巨大蜘蛛を使役しまたがる、ビーストテイマーといったところか。


「人間サイズになったとき、クモがハチより強いっちゅうことを教えてあげますわ」


 自信たっぷりに綱をわしづかむと、琴石は睨みを利かせてくる。


「ふぅん、ボクと張り合う気なんだ」


 刹那、桐葉の内側から、熱気のようなものが膨れ上がる気がした。


 きっと、彼女も【ホーネット】を発動させて、身体能力を人間大のハチへと近づけているのだろう。


 ジャンボジェット機も捕らえるというクモの綱に、桐葉の細い十指が牙のように食い込んだ。


 互いの生徒たちが綱をつかむと、体育祭実行委員の声がアナウンスされた。


『それでは時間いっぱい。1年1組対1年2組の綱引き対決。よーい、ドン!』


 互いの生徒たちが咆哮を上げながら、綱を引いた。


 俺も、久しぶりに大声を張り上げながら、満身の力を込めた。


 掌が綱との摩擦で痛み、足の裏とふとももに過重がかかる。


 琴石のあの姿は、桐葉のファイナルモードに相当するものだろう。


 一方で桐葉は怖がられるからと、ファイナルモードは普段使わない。


 それでも、綱引きは俺らの優勢だった。


「な、なんやて!?」

「残念、能力が同じでも、ボクのほうが出力は上みたいだね」


 どうやら、桐葉のほうがゲームで言うところのレベルが高いらしい。これは嬉しい誤算だ。


「くっ、なら鳴芽子(なめこ)!」

「OK! 地面の摩擦ゼロ!」


 琴石のうしろで綱をつかんでいた女子が叫ぶと、途端に地面が滑り、俺らはなすすべもなく引き込まれていく。


「あいつ、摩擦使いか!?」

「あはははは! あたしは滑川(すべりかわ)鳴芽子。日本一の摩擦使いだよ!」

「なら飛ぶだけさ!」


 桐葉が地面を捨て、空に飛び上がった。


「ならあたしは綱の摩擦も消すだけさ!」


 滑川の言葉と同時に、俺の手から綱が逃げていく。まるで、ウナギを握っているようだ。


「くっそ!」


 俺が思わず悔しがると、桐葉が牙を剥くように吠えた。


「ッ、ボクを、ナメるなぁああああああああああああああああ!」


 宙に浮く桐葉の全身にグリッド線が奔り、またたくまにハチを模した外骨格を形成していく。


 前腕は倍以上に巨大化した甲殻腕にナイフのような十指が構築され、鋼の8倍の強度を誇るクモ綱に深く食い込んだ。


 それは摩擦力ではない。


 地面にクサビを打ち込むように、指を綱に突き刺したのだ。


 ギチギチミチミチと音を鳴らしながら、綱が止まった。


 桐葉ひとりの飛翔推進力で、1年2組の全員と渡り合っていた。


「な、なんちゅうデタラメな! せやけど、ロープはもうこっちのモノ。このまま制限時間を過ぎればウチらの判定勝ちや!」


 琴石の言う通りだ。


 綱中央の目印は、依然として2組側にある。


 けれど、地面と綱の摩擦をゼロにされた以上、俺らにできることはない。


「うぉおおおおお、真理愛ちゃん! イトコちゃんの全裸画像を空中に念写して敵の集中力を乱すんす!」

「騙されるな真理愛! 詩冴は自分が見たいだけだ!」

「じゃあハニーちゃんがイトコちゃんのパンティをアポートして集中力を乱して欲しいっす!」

「アホか!」


 ――いや、待てよ。


 詩冴のおかげで、俺は閃くものがあった。


 綱引きのルールは、綱を引くことではない。綱中央の印が、ゴールラインを越えればいいのだ。


 つまり。


「綱をこっちにテレポートっと」


 琴石たち2組が盛大にずっこけた。

 綱は、まるごとゴールラインを越えて俺らの足元に転がっている。


『勝者! 1年1組ぃいいいいいい!』


 俺らは歓喜の声を上げて跳び上がった。


「やったねハニー♪」


 元の姿に戻りながら、桐葉が上から飛びついてきた。


「うおぅ!」

「流石ハニーさんです」

「ハニーのテレポート、相変わらずチートよね。いいこいいこしてあげる」


 桐葉、真理愛、茉美、三人の恋人から褒められ、他のみんなも、やんややんやと俺の周りで騒いでいる。


 あまりこういう扱いをされると調子に乗ってしまいそうで怖いけど、やっぱり、嬉しいものだ。


 特に、桐葉と真理愛に左右から挟まれ、茉美に頭を撫でまわされると、充実感が半端ない。


 すると、人形のように地面に転がっていた美方が目を覚ました。


「はっ!? これは、ふーん、淫獣が勝ちましたの」


 そのくせ、ちっとも悔しそうではなかった。

 むしろ、勝利を確信したような、含み笑いすら浮かべていた。

 いったい何を企んでいるんだろうと、かなり気になった。


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 超能力で作った綱をテレポートできるのかという質問がありましたので解説。

 糸恋の綱は物質として確立しているのでできます。

 つまり同じ超能力でも一定時間経ったら消えるものは超能力物質なのでテレポートできません。

 桐葉のハチミツみたいに食べて栄養にできるもの、超能力由来だけど一定時間経っても消えないもの、なんなら能力者本人の意思でも消えない物はテレポートできます。

 OUのパワードスーツがテレポートできないのは、そもそもコピー能力について詳しく説明されていなかったと思うのですが、コピー能力のコピー品は一定時間経つと消える上に同時に出せるコピーも限られています。

 桐葉が最終形態でもテレポートできることについては、まず桐葉は全身鎧ではなく露出部分があるのでテレポートできる。

 ハチの外骨格ごとテレポートできるのは、ご都合主義で言い訳になりますが、外骨格が桐葉の体の一部と判定されているか、桐葉自身がハニーくんにテレポートされることを許容しているからだと思われます。

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 本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。

 みなさんのおかげで

 フォロワー12715人 375万8888PV ♥57542 ★6168

 達成です。重ねてありがとうございます。

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