第160話 私の勝利を犠牲に奴を不幸にできるなら!
それからややあって。
『女子タイヤ引きレース! 肉体強化系、動物変化形、移動系能力者たちを抑えて一着を獲得したのは1年1組、三又茉美選手ぅううううううう!』
「いよっしゃぁあああああああああああ!」
ゴール近くにいたF6のぼそりと一言。
「メスゴリラ」
「バーバリアン」
「アマゾネス」
「ゴーレム」
「人間ブルドーザー」
「ショートパンツ越しのお尻がヤバい」
茉美はF6目掛けてタイヤを蹴り飛ばした。
F6はボウリングのピンのように吹っ飛んだ。
――あれが正直者は馬鹿を見るということか。
「ハニーくん、次はクラス対抗の玉入れだよ」
「ん、おう」
舞恋に呼ばれて、俺は桐葉たちとグラウンドの中央、芝生エリアに集まった。
『それでは続いてクラス対抗玉入れ競争! レディ、ゴー!』
「ほいテレポート」
開始と同時に、俺は芝生に散らばる玉を全て、カゴの中へとテレポートさせた。
当然、玉入れはうちのクラスの圧勝だった。
『またしても1年1組の圧勝! 流れは完全に1年1組だぁ!』
俺は思わずガッツポーズ。
1組のみんなも、同時にガッツポーズをキメていた。
ただ一人、美方だけが歯ぎしりをしている。
「くっ、このままじゃ1組が勝ってしまいますわ。なんとかしなくては」
「姉さん、下手の考え休むに似たりってことわざ知っている?」
「? 知っていますが急になんですの?」
「ううん、なんでもないよ」
――守方の苦労がしのばれる……。
俺は、心の中で守方にエールを送った。
◆
一時間後。
『続いては1年1組対1年2組による綱引きです。なお、綱はクモの能力をクモ以上に発現できる琴石糸恋(こといしいとこ)さんの提供によるものです』
1年2組の先頭には、先程の長身銀髪美少女が堂々と仁王立ちしていた。
「ウチの糸は音速で飛ぶジャンボジェット機かて捕らえます。さぁ、思う存分引っ張りや!」
「あ、お前琴石って名前だったんだ……」
「ッ、今更かいな!?」
「だってお前さっき自己紹介しなかったし……」
「え? そやったか?」
「うん」
俺が頷くと、琴石の眉と目尻が垂れて、つつましく赤面しながらうつむいた。
子猫が鳴くような声で、
「恥ずいわぁ」
とか言っている。
2組のメンバーが慌てている。
――2組ってマジでいい奴しかいないなぁ。それに引き換え……。
「いーい守方! 全力で逆方向に引っ張ってクラスの足を引っ張りますわよ!」
「そんなことしたら姉さんますます友達できないよ?」
「ぐっ! 構いませんわ! ワタクシは淫獣を倒すためにこの身を捧げると誓ったのですわ! これこそが嫌われる勇気というものなのです!」
「蛮勇以下の勇気をありがとう。ところであれは何?」
「あれ? ウッ――」
電気ショックで気絶した美方を地面に転がして、守方は俺に手を振った。
「はにー君、姉さんは気絶させといたよ」
「お、おう」
かつて、ここまで弟からぞんざいに扱われる姉がいただろうか。
美方に対する同情と慈愛の心が湧いて止まらなかった。
「ふん! さっそく一名脱落かいな。これは、ウチらの勝利は決まったようなもんやな!」
いつのまにか自信を取り戻した琴石が、居丈高に高笑っていた。
「ていうか琴石ってなんで俺らを目の敵にするんだ? 四天王なんて周りが勝手に呼んでいるだけだぞ?」
「ふん、まぁ四天王に勝ちたいいうんもあるけど、ウチは針霧桐葉、あんたを負かしたいんや!」
「え? ボク?」
ここで意外なご指名に、俺はちょっと警戒した。
――まさかこいつ、桐葉の蜂の能力にイチャモンつける気か?
桐葉は能力を恐れられて、いじめられてきた。
琴石もその手合いかもしれない。
琴石はツカツカと歩いてくると、先頭の俺の横を素通りして、うしろの桐葉と正面から向かい合い、桐葉の髪をわしづかむと、豊満すぎるバストを衝突させた。
「同じ長身に桐葉は亜麻髪金眼でウチは銀髪翡翠眼! 同じ色白でHカップの爆乳に日本人離れした特大のブラジリアンヒップと絶世の美貌を持つ虫系能力者でキャラがもろ被りやん! 負けへん! ウチは桐葉の下位互換やあらへん! ウチがインセクトクイーンや!」
俺の目の前で桐葉と一緒に頭の高さ、瞳、髪、バスト、ヒップを次々突き出して叫ぶ琴石。
露出度の高いランニングシャツと体にフィットしたランニングショートパンツで、しかも桐葉とふたりでされるものだから、俺は色々と困ってしまった。
――ていうかなんで桐葉も一緒にバストやヒップをのりのりで突き出してくるんだよ。敵なの? 桐葉は俺の敵なの?
「確かにイトコちゃんのカラダはキリハちゃんと並んで学園トップクラスのドスケベボディっすね。はぁはぁ」
「いいのか琴石。こんなオヤジ女子に狙われるんだぞ?」
「枝幸詩冴さんですか? そんなボンクラ、ウチの【アラクネ】の敵やあらへん。さぁ、そろそろ綱引きを始めましょか?」
言うや否や、琴石の額から丸いエメラルドのような瞳が浮き上がり、両手脚が黒い甲殻に覆われていく。
彼女の豊かなヒップラインから光のグリッド線が奔り、巨大な蜘蛛を形成した。
蜘蛛はテクスチャを張られるように色と厚み、質感を得て実体化。
琴石はまさに神話のモンスターアラクネを彷彿とさせる姿へと変貌を遂げた。
ただし、蜘蛛の頭から女性の上半身が生えているのではなく、蜘蛛の頭に座る女性に見えるため、モンスター感は無い。
巨大蜘蛛を使役しまたがる、ビーストテイマーといったところか。
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前話の、奈良弁がエセ大阪弁に聞こえるというくだりは、作者が大学生時代に実際に見たやり取りです。けして奈良県民をバカにしているわけではありません。すいません。
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本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。
みなさんのおかげで
フォロワー12680人 373万9321PV ♥57346 ★6151
達成です。重ねてありがとうございます。
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