第146話 救世主貴美美方登場!

 あまりにも酷すぎる状況に、俺は舌打ちをした。


「ッ、アポートは無理か」

「うむ。内峰美稲の言う通りだ。いま、総理の機嫌を損ねるわけにはいかん」

「だからってあいつ何なのよ!? ほんとなんなのよ!?」


 茉美は憤慨して、舞恋と真理愛、麻弥は言葉を失っていた。


「ハニーちゃん、割と本気で総理を下水道シュートしてください……」


 苦々しい声で詩冴が提案した内容が魅力的に思えた。


「でもそうだよな。よくも考えてみれば、こいつのオトモダチ人事のせいで日本が経済破綻して、俺らはその尻ぬぐいをしているんだよな」


「そうだ。こいつらの身勝手のツケを我々が払わされている。だが文句を言っても始まらん。針霧桐葉と内峰美稲の試合が始まるまで一時間半。それまでに二人が戻らなければ興行は失敗だ」


 眉間にしわを寄せながら説明してから、早百合次官はどこかに連絡した。


「私だ。トラブルが発生した。針霧桐葉と内峰美稲が遅れる可能性がある。各試合を、五分を目処に長引かせてくれ。そうだ。予定を押していると思わせるのだ。イベントが予定より長引くのはよくあることだ。違和感はないだろう」


 連絡を終えてからも、早百合次官の眉間から縦ジワが消えることは無かった。


 曲げた人差し指の関節を唇に沿えながら、焦れた声を漏らした。


「これでどれだけ持たせられるかが勝負か……」


 あの早百合次官が本気で焦っている。


 それだけで、本当に万策尽きていることが痛いほどわかった。


 タイムリミットは一時間半後。


 それでも俺の心臓がキンと痛み、肺の中で焦りが膨らんでいくようだった。


 ――頼む、早く終わってくれ。


 そう願いながら、俺はMR画面内の桐葉と美稲に視線を注ぎ続けるしかなかった。



 だが、俺の願いも空しく、刻々と時間だけが過ぎていった。


 一時間半なんてまたたくまに過ぎ去った。


 今は、早百合次官の指示で引き延ばした時間で、どうにかしているに過ぎない崖っぷちだ。


 だがMR画面の中の桐葉と美稲は、まだ解放されそうにない。


 俺らの気も知らず、中東の王族とやらは楽し気に喋り、一人で勝手に盛り上がるばかりだ。


 焦燥感が募り、奥歯に力が入る中、ついに試合が終盤に差し掛かってしまう。


「くそ、このままじゃ間に合わないぞ。やっぱり無理やりにでもアポートするか」

「いや、それよりもあたしが他の選手を回復させてもう一度戦わせるわ!」

「待て」


 俺と茉美を、早百合次官が手で制した。


「無理にアポートすれば、今後、総理の協力を取り付けられなくなる。なんの打ち合わせも無く同じ選手をもう一度戦わせるのも愚策だ」


 早百合次官の言い分は正論で、言い返せなかった。


 ならどうすれば。

 大事な初試合。

 これが失敗すれば、アビリティリーグのイメージは悪くなる。


 運営がぐだぐだで、やっぱり戦闘系能力者を戦わせるなんて無理があったと言われるだろう。


 戦闘系能力者のイメージ回復もできなくなる。

 そうすれば桐葉たち戦闘系能力者の未来は?

 第二、第三の坂東や伊集院みたいな存在が現れたら?

 その事件の被害者は?

 今後、総理からの協力を失ってでも桐葉と美稲をアポートさせるか。


 それとも。


 メインイベントが中止という中途半端な興行で終わらせ、次の試合で挽回するか。

 究極の二択に思わず目を閉じてうつむく直前、何故か麻弥の髪を飾る古銭が光った気がした。



「はんっ、どうやら大盛況のようですわね!」



 その声に目を開けて顔を上げる。


 ドアの前に立っていたのは、自称、世界最強の超能力者で万物を灰にする灼熱紅蓮のマグマ使い! ボルケーノ貴美美方(たかみみかた)だった。


 その隣に立つ男子は、弟の貴美守方(たかみかみかた)だ。


 守方は相変わらず眠そうな目でのんびりと佇み、美方は黒髪ドリルヘアーを揺らしながら腰に手を当て、居丈高な笑みを不敵に浮かべていた。


「貴方がたハレンチな凡民がどれほどのことができるか遥か高みより観賞させてもらいましたが、まぁまぁ人気のようですわね」

「姉さん、さっきは大盛況って言っていたよね?」


 守方の口を手で押さえながら、美方は胸を反らして高笑った。


「それにしても、人前で殴り合うなんてはしたない。こんなものを見て喜ぶなんて品性がありませんわ。どうせ観賞するならもっとダンスやクラシックコンサートやミュージカルなど芸術性のあるものにすればいいのに。まぁ粗野な庶民にはお似合いでしょうか?」

「美方!」


 俺が一歩踏み出すと、美方は目を丸くしてビクリと背筋を伸ばした。


「なな、なんですの!? 怒りましたの!? ワタクシ、暴力には屈しませんわよ!」

「姉さん、僕の背中に隠れながら言ってもカッコ悪いよ」


 二人に、俺は腰を折って頭を下げた。


「頼む! 試合に出てくれ! メインイベントの桐葉と美稲の到着が遅れているんだ!」


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 本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。

 みなさんのおかげで

 フォロワー12237人 245万7400PV ♥52099 ★5999

 達成です。重ねてありがとうございます。

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