第147話 頼もし過ぎて感謝の言葉もない!
「頼む! 試合に出てくれ! メインイベントの桐葉と美稲の到着が遅れているんだ!」
俺が感情をぶつけるように声を張り上げると、弟さんの守方が尋ねてきた。
「どういうことだい?」
「桐葉と美稲の試合は今日のメインイベントなんだ。客はみんなこの試合を楽しみにしている。だけど二人とも、総理のわがままに捕まっていつ来られるかわからないんだ。だからそれまで、お前らの試合で場を繋いで欲しいんだ! もちろん謝礼は払うしケガをしても茉美が試合後にすぐ治す! 勝手な頼みだと自分でも思う。だけど頼む!」
嘘偽りなく、正直に懇願した。
だけど、返ってきたのは俺の願いとは真逆の、侮蔑に染まった声だった。
「醜いですわね」
頭を下げている俺には彼女の姿は見えないが、虫を見下すような表情がありありと浮かんだ。
「お前が怒るのは当然だ。お前の力を単なる場繋ぎの代役、しかも金で釣るような真似をして、後で治療するからって痛いのはお前らなのに!」
「そんなことはどうでもいいですわ」
さっきまでの臆病風が嘘のように蔑んだ声で、彼女は講釈を始めた。
「頭の重さは下げた回数に反比例します。男が簡単に頭を下げるものではありません。 軽い会釈ならともかく、男がつむじを見せてもいいのは、己が魂を賭ける時だけと心得なさい」
それから、まるで汚物を吐き捨てるように、美方は俺を罵った。
「己の野望のためなら誰にでも頭を下げる。そんな醜い豚のような、まさに破廉恥極まる者は凡民ではなく愚民。喋る家畜ですわ。いきますわよ守方、こんな連中、からかう価値もありませんわ」
彼女が踵を返す足音を聞いて、俺は抑えきれない気持ちを口から絞り出した。
「俺の頭ひとつで山ほどの人を救えるなら、頭くらいいくらでも下げてやるさ」
足音が止まった。
振り返る音はしないも、貴美は背中で俺の言葉を待っているようだった。
「俺は何の努力もしていない。ただ生まれつきテレポートを持っていた、それだけで
四天王なんてもてはやされている。なのに戦闘系能力者は需要が無くて、みんな自己否定感に悩んでいる。これは理不尽な格差だ。俺は理不尽が嫌いだ」
かつて、理不尽にいじめられ、誰も助けてくれず、独りだった頃の惨めな気持ちを思い出して、胸の辛さを押し込めるように息を呑み込んでから、俺は語った。
「戦闘系能力者ってだけで危険視されて、社会から必要とされなくて、鬱屈とした気持から犯罪に走る奴もいるかもしれない。俺の同級生の、坂東亮悟みたいに」
――それに、問題はそこで終わらない。
俺の声は徐々に熱を帯びて、言葉を加速させながら、俺は思いの丈を吐き出した。
「その犠牲者は一生超能力者を恨む。そのうち超能力者全員が危険視されるかもしれない。そうなったら大勢が苦しむ。何十年も、何百年も差別問題が世界中に蔓延する。それを防ぐには、今ここで戦闘系能力者のイメージ回復と生きる道を示さないといけないんだ!」
「……でも、貴方がた四天王は別でしょう? 国益を左右する貴方たちを差別する人なんているはずがないわ」
長い沈黙を破った言葉に、俺は頭を下げたまま、首を横に振った。
「それじゃ駄目だ。同じ超能力者たちが差別されて、俺らだけが特別扱い。そんな歪んだ世界で、俺は生きたくない。そんな世界を、俺の子供に見せたくない。俺は、俺の味わった理不尽を、他の奴に味わわせたくないんだ!」
最後は、声をからさんばかりに声を張り上げていた。
恥も外聞もない、感情をむき出しにした言葉を吐き出し終わると息は乱れ、俺は肩で息をしていた。
関係者ルームに、長い沈黙が流れた。
その永遠にも感じる時間を、俺はわらにもすがる想いで耐え続けた。
すると、貴美の重たい声が降ってきた。
「貴美家の者が、動物園の獣が如き大衆の見世物になるなど言語道断……ですが」
踵を返す摩擦音に、俺は曲げていた腰を伸ばして顔を上げた。
そこには、威風堂々、女帝然とした風格で俺を見据える二つの瞳があった。
「凡民の期待に応えられぬ王など張子の虎にも劣りますわ!」
語気を滾らせ、貴美は腰から瀟洒な扇子を取り出し、気風よく広げた。
「参りますわよ守方! 凡民たちに我らが威光を見せつけるのです!」
姉の指示に、弟さんは目元をゆるめてほほ笑んだ。
「うん。流石はぼくの姉さん。カッコイイよ」
「当然ですわ! さぁ奥井育雄、ワタクシたちを、あのフィールドへテレポートさせなさい!」
二人の返事に、俺は万感の思いを込めて叫んだ。
「頼もし過ぎて感謝の言葉もねぇよ。じゃあ頼んだぜ、二人とも!」
俺は、貴美姉弟をテレポートさせた。
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本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。
みなさんのおかげで
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達成です。重ねてありがとうございます。
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