第141話 結局やっぱり真理愛無双



 収録が終わると、俺は桐葉と一緒に控室にこもり、真理愛に問いかけた。


「どうしてあんな無茶をしたんだ? もしも、俺らを助けるためなら自分を犠牲にしてもいいなんて思っているなら嬉しくないぞ。俺が助かっても、真理愛が助からなかったら、何の意味もないんだからな」

「すいません」


 俺が語気を強めると、真理愛は申し訳なさそうに眉を八の字にした。


「それに、俺らの為にもならない。現代社会において真理愛の力はチートだ。チート過ぎるどころか過ぎ過ぎる」


 真理愛の念写は、過去と現在のあらゆる情報と映像を任意のものに映し出せる。

 つまり、全人類をいつでも社会的に抹殺できるということだ。

 こんな強力な力はない。

 俺のテレポートがかすんでしまう。


「先月、伊集院の事件の後に思ったんだ。俺らは、真理愛に頼り過ぎていないかって。日銀総裁を倒せたのも真理愛のおかげだし、俺らは敵対勢力がいたら真理愛に消してもらえばいい、そんな堕落気持ちがあるんじゃないかって。でもそれは駄目だ。困った時の真理愛頼みなんて、そんなの真理愛を人扱いしていない。真理愛は、俺らの便利な道具じゃないんだ」


 俺の気持ちが通じたのか、真理愛は深く目を閉じて唇をかんだ。

 けれど、固く閉じられた唇が開くと、真理愛は言った。


「私が嫌なんです。皆さんを助けられないのが」


 声は震えていた。

 いつもは言われるがままの彼女とは思えない、自立した言葉で、彼女は顔を上げた。


「私なら皆さんを助けられるのに、どうして尽くしてはいけないんですか? そんなの仲間外れです」


 仲間外れ、という単語に、元ボッチの俺は胸が痛んだ。


「私はハニーさんのことが好きです。大好きです」


 突然の告白二連続に痛んだ胸がトキメいた。

 わかっていても、やはり好きだと言われるのはキュンとくる。


「なのにハニーさんは、私のことを対等な仲間ではなく、まるでお客様のように遠慮して扱います。私は家族に、旦那様にはいっぱい頼って欲しいです」


 ――旦那様って!?


 恋人をすっ飛ばしていきなり最終形態で呼ばれ、胸のドキドキが止まらない。

 さっきから真剣な話をしているのに、真理愛が無自覚に心の琴線を連打してきて、話に集中できなかった。


「それに、ハニーさんは私に頼みごとをしたことはありません。私頼みになっている、なんてことはないと思います。むしろ、ハニーさんはもっと、積極的に私を頼るべきだと思います」


 一歩俺に迫りながら、真理愛はこいねがうように切ない声を絞り出した。


「それとも、私の愛は重たいでしょうか? 迷惑でしょうか? 面倒な女は、お嫌いでしょうか?」


 濡れた瞳に見つめられて、心に鋭い痛みが走った。痛恨の一撃だ。

 ここで折れるべきか、奥歯を噛みしめながらか悩むと、すぐ近くに座っていた桐葉が笑い転げた。


「あはははは! ハニーの負けだよ!」


 立ち上がって、桐葉は真理愛の肩に抱き着いた。


「ボクもハニーにいっぱい頼って欲しいし、ハニーのことはボクが守りたいからね。真理愛の気持ちは良くわかるよ」

「桐葉さん」


 真理愛の表情がほのかに明るくなると、桐葉は嬉しそうに笑ってから、くるりと首を回した。


「と、いうわけで二対一で女の子チームの勝ちだよ。ハニーはボクらをお姫様じゃなくて、一緒に戦う女騎士として扱うように」


 勝ち誇った顔の桐葉に、俺は降参モードでため息をついた。


「やれやれ、敵わないな。うん、でもそうだな。なんでもかんでも頼り過ぎは良くないけど、真理愛は家族だもんな。じゃあ真理愛、これからも、俺らじゃどうにもならないことがあったら、頼ってもいいか?」

「はい。お任せください」


 真理愛の無表情に、愛らしい笑みが浮かんだ。

 それだけで負けた気分が一転、俺はむしろ勝利の美酒に酔いしれた。


「あ、でもハニー、ベッドとお風呂の中ではお姫様扱いしてくれると嬉しいな」


 桐葉は腰をひねって体にしなを作りながらセクシーなくちびるを突き出し流し目を送ってきた。

 彼女の三連コンボに、俺は邪心まみれの妄想が暴発した。


「真理愛、念写!」

「あ、はい!」

「やめろぉおおおおおおお!」


 俺の願いも空しく、桐葉と真理愛はMR画面を見ながら赤面した。


 俺が絶望感で足場を失ったように膝から崩れ落ちると、不意にドアが開いて、足早に早百合次官が入室してきた。


「三人とも今日はご苦労だったな。何を見ている? ふむ、これが奥井ハニー育雄の性癖か。流石のおっぱい国民だな」


 ――いやぁあああああああああああああああ!


 その時、廊下から不穏な足音を感じ、俺は廊下の人間をアポートした。

 すると、美稲、詩冴、舞恋、麻弥、茉美が逃亡ダッシュポーズで現れた。


「お前らいつから覗いていたんだ!?」

「ご、ごめんハニー君、真理愛さんと何を話しているのかな気になって……ッ!?」


 美稲が、そして詩冴、舞恋、麻弥、茉美が次々MR画面に気づいて赤く固まった。


「違うんだみんな! それは桐葉と若さのせいなんだ!」

「黙れ性犯罪者!」


 赤鬼のような顔をした茉美の右ストレートが俺の顔面にクリーンヒット。

 そこで俺の意識は途切れた。

 けれど、女の子なら当然の反応だろう。すべては自業自得、俺が悪いのさ。



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 本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。

 みなさんのおかげで

 フォロワー12084人 335万8356PV ♥50080 ★5936

 達成です。重ねてありがとうございます。

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