第142話 打ち上げパーティー

 一時間後。

 早百合次官を含めた俺ら9人は、リビングで打ち上げパーティーを行っていた。


「今日も貴君らの活躍で大成功だ。番組放送直後から各廃絶主義団体にはクレームが殺到し、ネット上ではアビリティリーグの人気と需要はうなぎのぼりだ。8月31日予定の試合は、観戦希望者が10万人を超えているぞ」


 力強くも上機嫌に語りながら、早百合次官はハチミツティーを飲み干した。


 みんなも楽しそうに喋りながら、桐葉と出前の料理を楽しんでいる。


 ただ一人、茉美だけはちょっと肩身が狭そうな表情で俺のことをチラチラ見てくる。

 俺を殴ったことを気にしているのかと思ったけど、茉美に限ってそれはないだろう。


「しかしこのままアビリティリーグが成功すれば、また貴君の偉業が増えてしまうな」


 冗談めかしてくる早百合次官に、俺は苦笑しながら手を横に振った。


「いや、俺はアイディアを出しただけで実際にはみんなの協力のお陰ですよ。今回の討論会だって、真理愛と美稲と早百合次官がいなかったら完全敗北でしたよ」


「謙遜癖は相変わらずだな。だが、成功者はそれぐらいが丁度よい。歴史上、数多の偉人が調子に乗って転落人生を送っている。それは何故か」


 朗々と、早百合次官は調子よく喋った。


「人は出世するほど共感性を失い自己中心的になるからだ。だが、真に頂点を極められるのは出世してなお共感性を失わない者だ。貴君にはその素質がある」


「あまり持ち上げないで下さいよ。でも、早百合次官が言うようにアビリティリーグが成功したら、戦闘系能力者にも能力を活かした働き口ができます」


「うむ、自分らしく、自分の生まれ持った能力で食べていけるわけだ。私の目指す平等で公平な世界に一歩近づくな」


 ――早百合次官って将来総理大臣になりたいのかな?


 快活に笑う彼女を眺めていると、ハマり役な気がした。

 そこへ、今まで黙していた茉美が口を開いた。


「あのさ、なんで育雄はもっと自由にしないの?」


 要領を得ない問いかけに、俺は疑問符を返した。


「どういうことだ?」


 茉美は、ためらいがちに、迷うように尋ねてきた。


「だってさ、育雄ってば本当にチートじゃない。テレポートで気に食わない奴は全員飛ばせるし、給料は億単位で、日本を救ったスターで、美人の彼女がいて……全部持っているじゃない。なのに、いっつも他人のために働いてばっかり」


 茉美の言いたいことは、なんとなくわかる。

 幼い頃から、人間の負の面を見てきた俺は、もしも連中が俺の立場だったら、として考えてみる。


「まずテレポートが自分の力だって実感がないんだと思う。俺は今年の四月に自分がテレポーターだって知ったばかりだからな。俺が凄いんじゃなくてテレポートが凄いって言えばいいのかな。例えばデバイスの無い国で俺がデバイスを使って情報を検索して教えたら大賢者として崇められているような感じかな。いやデバイスがあれば誰でも検索できるんだけどなって話だろ? あとは趣味の問題かな?」


「趣味?」


「ああ。俺は他人を害したり支配することに興味は無いし、地位や権力は面倒なんだよ。金目当てで群がって来る女やすり寄って来る取り巻きなんて気持ち悪いだけだし、そんなことしなくても桐葉と真理愛がいるし、茉美たちっていう友達もいるし」


 上手く説明できた自信はない。

 だけど、そうとしか言えなかった。


「そんな感じなんだけど、信じてもらえないかな?」


 何か考え事をするような仕草をしてから、茉美は優しい笑みを浮かべた。


「ううん、信じるわ。だって、女の子を守るために体を張れる奴が悪党なわけないもん」


 どうやら伝わったらしい。

 茉美とわかりあえたことが嬉しくて、俺はささやかな達成感を得られた。


「だってよく考えたら桐葉と真理愛と美稲の三人と同居しているハーレムマニアだし、方向性が違うだけよね」

「いや! ちょっ! ちが! ていうか美稲は恋人じゃないから!」

「え? でも同棲しているんでしょ?」


 茉美の右手が指した方には真理愛の部屋へ繋がる通路が、左手が指した方には美稲の部屋へ繋がる通路ができている。


「うぐっ! いやあれは美稲が勝手に開けたというか!」

「エー、ヒドイー、私トハ遊ビダッタノー?」

「美稲、お前なんで最近そんなに冷たいんだ!? 俺の事嫌いなのか!?」

「ソンナコトナイヨー、ハニー君ノコト大好キデハーレムニイレテ欲シイナー」

「三人目!? あんたまさかこのままあたしら全員を!?」

「ボクはここにいるメンバーなら構わないよハニー」

「桐葉! お前までそっち側に回るのか!? 俺に味方はいないのか!?」

「安心しろ奥井ハニー育雄! 私は24歳、四捨五入すれば我々は20歳同士、つまりタメだ。私が25歳になる前ならば結婚に障害は無い!」


 スイカよりも大きなバストを寄せて上げて上下に弾ませられて、俺は目を皿のようにしてしまった。


 ――デカイッ!?


 確実に、俺の顔がまるごと埋もれるだろう。


「どこ見てんのよ! 言っておくけど、もしも女の子を泣かせたら命はないものと思いなさい!」

「わかったから拳を握るな! 約束する! 絶対に女の子を泣かせないから! だから許してくれ!」

「はっ!? つまりシサエが泣けば合法的にハニーちゃんと結婚できる!? ハニーちゃん、ハニーちゃんと結婚できないとシサエ泣いちゃうっす。だからキリハちゃんとマリアちゃんのベッドにシサエも入れて欲しいっす!」


 俺はシサエをお風呂場にテレポートさせた。

 スコーンと、お風呂場から詩冴が壁に頭を打つ音が聞こえてきた。


「ひどいっすぅうううううう!」

「ハニーって詩冴に厳しいよね」

「優しくすると調子に乗るからな」


 俺はきっぱりと、そう断った。

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 本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。

 みなさんのおかげで

 フォロワー12108人 337万6606PV ♥50586 ★5940

 達成です。重ねてありがとうございます。

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