第11話 転校生は金色の美少女ボディーガード

「では、今日は転校生を紹介する」


 翌朝のホームルーム、担任の一言で、教室は騒がしくなった。


 高校一年生の四月で転校生となれば、当然だろう。


 こんな時期に転校してくるなんて、どういうわけだと、みんな囁き合う。


「針霧(はりきり)、入れ」


 幕が開くようにドアがスライドして、姿を見せたのは、目の覚めるような、【真正】の美少女だった。


 教室中に静寂が走って、息を呑む音が響いた。

 亜麻色の髪にハチミツ色の瞳をした、金色の美少女。


 けれど、クールな顔立ちはアジアンビューティーを体現した切れ長の目に、愛らしい桜色のくちびるが印象的だった。


 背は高く、手足はスラリと長く、ウエストは細く短く、だけどそれら全てと相反するように、胸周りと腰回りは発育が良い。


 セクシー系MMD動画の素体がそのまま実体化したような、2・5次元美少女がそこにいた。


 みんな、次々耳裏のデバイスを外して、彼女に視線を合わせた。

 彼女が、デバイスの見せているMR映像ではないかと疑っているようだ。

 俺も、その気持ちは痛い程わかる。


「針霧、自己紹介をしろ」


 まるで、証明写真を撮るように無表情だった彼女は、担任に促されて、無関心な声で言った。


「はじめまして。名前は針霧桐葉(はりきり・きりは)。趣味は……音楽聞きながら寝ることかな」


 他人との接触を最低限に抑えるような、気だるげな態度だった。

 それでも、彼女の魅力はまるで変わらない。


 彼女は、今どきの高校生には珍しく、化粧をしていなかった。


 化粧もアクセサリーも衣装も、笑顔すらなく、それでもなお、彼女は圧倒的かつ完璧な美少女だった。

 まさに、【真正】の美少女、と言ってしかるべき存在だ。


「所属は総務省異能部の戦闘班。この学校には、奥井育雄って子を守るために来たんだ。ボクはボディーガードってわけなんだけど」


 クラス中の視線が俺に集まると、彼女も俺に目を留めた。

 そして、無機質な表情に、感情の火が灯った。


「みっけ♪」


 ぱっとまぶたを持ち上げて、声をはずませた。

 軽くて猫のようにやわらかい足取りで、彼女はするすると俺との距離を詰めてきた。

 絶世の美少女の急接近に、俺はぎょっとして、やや背筋が伸びた。


 彼女は頭を振って、あらゆる角度から俺の顔を、ためつすがめつ観察してきた。


「キミがボクのターゲットだね。ふーん、へー、写真で見るより可愛いかも。人畜無害そうで」

「それは、褒めているのか?」

「褒めてるんだよ。人間なんて人畜有害な奴ばかりじゃないか」


 子供のように遠慮のない、幼い残虐性を感じさせる声音に違和感を覚えるも、彼女は止まらなかった。


 俺の机に手をついて、前のめりに顔を近づけてきた。


 ――うわっ。


 吐息の射程圏から、彼女はやわらかい表情で囁いてくる。


「早百合部長から、ボクのことは聞いているよね? ボクは針霧桐葉、今日からボクがキミのボディーガードだよ」


 彼女からは、瞳の色と同じ、ハチミツのように甘い匂いがした。


 香水じゃない。


 彼女の吐息からも、同じ匂いがする。

 これは、彼女自身の香りらしい。


 そこへ、後ろの席に座る坂東が声を上げた。


「おい、なんで奥井なんかにわざわざボディーガードが付くんだよ?」


 途端に、針霧の表情が絶対零度まで冷え込んだ。


「誰? キミ?」

「ッッッ!!!」


 坂東の顔が屈辱に染まった。


 これはキツイ。


 坂東は、幼い頃から常にみんなの中心人物で一番の有名人で、坂東は知らない人でも向こうは知っている、なんてのが普通だ。


 きっと、他人から「誰?」なんて、言われたことはないだろう。


「あ、思い出した」


 針霧の一言で、坂東の眉間のしわがゆるんだ。


「キミってあれだよね。初日にどうして氷帝と呼ばれるオレ様に仕事がないんだってヒステリー起こして早百合部長に完全論破されていた。えーっと、製氷機があればキミはいらないとかそんなこと言われてなかったっけ?」


「ッッ~~~~~~!!」


 坂東の眉間と鼻に、彫刻刀で刻み込んだように深いしわが集まり、顔は憤死せんばかりに赤くなった。


 針霧の容姿が坂東好みでなければ、今すぐ氷の棍棒で頭を連打されているだろう。


「ちょっと待てよお前。坂東さんが製氷機以下なわけねえだろ! 坂東さんは氷帝と恐れられていて、そこらの不良が100人がかりだって勝てないんだぞ!」


 取り巻きの弁護も、けれど新参者の針霧にはどこ吹く風だった。


「アニメじゃないからね。異能者よりも戦車や戦闘機の方が強いから、ボクら戦闘系能力者は需要ないんだよ。それでもサイコメトリー能力で前科がなくて【精神面】に問題がないって証明すれば、要人警護の仕事を斡旋して貰えるはずなんだけど、確かキミ、滅茶苦茶動揺しながら断っていたよね。育雄とは真逆だね」


 生徒たちの間でひそひそ話が始まると、坂東は机を叩いて立ち上がった。


「てめぇ、ちょっと可愛いくて胸がデカイからって調子こいてんじゃねぇぞ。オレが奥井以下だって言いてぇのか?」

「当然さ」


 氷使いの坂東が熱くなる一方で、針霧は冷徹な態度を返した。


―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—

 本作を読んでくれて本当にありがとうございます。

 皆さんのおかげで、

 初日  87PV

 二日 235PV

 三日 422PV

 四日 597PV

 五日 949PV

 六日1268PV

 七日1771PV

 八日2684PV

 九日2905PV

 十日3359PV

 と、PV数は右肩上がりです。

 また明日の投稿も読んでくれると嬉しいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る