第10話 ネタバレ! 監視役は美少女です!


「戻ったか。今日もご苦労様だったな」


 俺、内峰、詩冴が総務省の会議室に戻ると、早百合部長が労ってくれた。


 あれ以来、俺ら三人は一緒に帰るのが日課になっている。


 俺が連れ戻してきた能力者たちが、総務省の職員たちに成果報告をする横で、内峰は早百合部長に尋ねた。


「お疲れ様です。早百合部長、プロジェクトの進捗状況はどうですか?」


「うむ、貴君らのおかげで順調そのものだぞ。内峰美稲が都市鉱山から金属資源を根こそぎ採掘するおかげで、究極のリサイクル体制ができている。明日から、国内の各メーカーへ金属資源の販売を行う予定だ。まだ貴君らのことは世間に公表していないから、表向きは政府の備蓄資源を解放したとしているがな」


 他にも、探知能力者が鉱脈を探知して、地形操作能力者地中から鉱石を掘り起こしている。


 けど、鉱石から金属のインゴットを作るのには手間と時間がかかる。


 海からいきなり金属塊を作れる内峰の能力は、本当にチートだ。


「食料も、牛肉は不足しているが代わりに鹿肉が、豚肉の代わりに猪肉が市場に流れる体制を構築中だ。警察班の活躍で未解決事件は一日100件解決しているし、行方不明者も毎日200人以上見つかっている」


「そうなると、残りは農作物と衣類、燃料ですね」


「それについてだが、燃料は政府の備蓄を解放、衣類は日本円が使えないから今まで稼いだ外貨で輸入、農作物と砂糖は、貴君が再構築した金銀プラチナで、東南アジアから輸入する予定だ」


 今の説明に違和感を覚えて、俺は口を挟んだ。


「どうして東南アジアからなんですか?」


「先進国の調査能力では、流通量や品質から、貴金属のインゴットを超能力で作り出していることがバレるかもしれないからだ。とはいえ、東南アジアには日本国民の需要を満たすだけの野菜や穀物の余裕がない。輸入は果物が多くなるだろうが、国民のビタミン不足は補える。農林水産省の働きかけて果物食の宣伝をしよう」


「ハチミツの生産量も数倍っす♪」

「お前が女王蜂を増やしまくったからな」


 普通、女王蜂候補の幼虫は数匹いるが、争いを経て、実際に女王蜂になれるのは一匹だけらしい。


 なのに、詩冴は養蜂所へ行くと、女王蜂候補の幼虫を増やしつつ、さらにミツバチ同士の争いを禁じて、全ての女王候補幼虫を女王蜂に育てるよう働きかけた。


 結果、詩冴が周った養蜂所は、ハチミツの生産量が数倍になる見込みだった。


「じゃあ俺らは報告が終わったら帰りますね」

「待て奥井育雄、貴君の処遇について、上層部より辞令が下った」

「え?」


「言いにくいのだが、貴君のテレポート能力を危険視する者がいる。彼がその気になれば、立入禁止区域への出入りも自由ではないのかとね。何か犯罪を犯しても、一瞬で現場から立ち去れる、と」


「いや、そんなことしませんよ。なんなら毎日恋舞にサイコメトリーしてもらって俺がいつどこにテレポートしたから報告してもいいですよ。恋舞!」


 犯罪者予備軍扱いされて、カチンと来た俺は、つい怒鳴っていた。


「大きな声出してどうしたの奥井くん?」


 職員の人に成果報告をしていたらしい恋舞は、不思議そうな顔で駆けてきた。


「これから毎日俺をサイコメトリーして俺の潔白を証明してくれないか? 上層部が俺を犯罪者予備軍扱いするんだ」

「えっ!? 毎日!?」


 何故か、恋舞はぽっと頬を染めて、顔をちょっと逸らした。


「毎日なんてしたらわたしも魔が差しちゃったら困るし」

「ん、どうした? 声が小さくて聞こえないぞ?」


 詩冴が、恋舞の肩をわしづかんだ。


「わかるっすよその気持ち。シサエがサイコメトリー能力を持っていたら間違いなくイクオちゃんの性癖をサイコメトリーするっす!」

「ふゃ!?」

「やめい」


 頭に空手チョップを入れるジェスチャーをして、俺は詩冴を撃退した。


「まったく、恋舞はお前と違ってイイ子なんだからな」

「そうっす、シサエは悪い子っす。だから何をしても許されるんす♪」

「どんな理屈だよごら。ん、どうした恋舞?」


 恋舞は、今すぐにでも岩に頭をぶつけて自殺しそうなくらい申し訳なさそうな、良心を痛めた顔で肩を縮めていた。


「産まれてきてごめんね奥井くん」

「何があったかわからないけどお前はうちの女子のマイナス1倍の価値があるから安心しろ」

「マイナス?」

「うちの学校の女子共は存在がマイナスだ。マイナスを掛け算しないとプラスにならない」

「あは、なにそれ」


 恋舞は、目じりに涙を溜めて、笑ってくれた。

 恋舞を笑わせられたことに、ちょっと達成感を得る。


「さてと、いい感じにイチャラブしたところで本題なのだが」

「イチャッ!?」


 恋舞は、両手で顔を覆ってうつむいてしまった。


 ――恋舞って一生いじられ役なんだろうなぁ……。


「そういうわけで奥井育雄。上層部の命令で、貴君にはボディーガードの名目で監視をつけることになった」

「監視ですかっ?」


 スキンヘッドでサングラスをかけた怖い顔の軍人が、四六時中張り付いてくる妄想が浮かんで、俺は素っ頓狂な声を上げた。


 そんな青春は絶対に嫌だ。


「心配しなくても、形だけの監視役だ。貴君を警戒する政治家へのパフォーマンスだと思ってくれていい。だから監視するのは、戦闘系能力者だ。初日に、サイコメトリーを受けた子らがいただろう? あの中の一人だ」

「な、なんだそうですか」


 戦闘系能力者、と聞いた瞬間、坂東が頭に浮かんで肝が冷えた。


 万が一にも坂東が俺の監視役になんてなったら、俺は東京湾に飛び込みたくなる。


「明日、貴君の学校に転校する手はずになっている。誰が行くかは、それまでのお楽しみだ」

「今っすよマイコちゃん! イクオちゃんの爆乳美少女に監視されたいというSUKEBE心をサイコメトリーするんす!」

「ふゃ!?」

「恋舞を便利グッズ扱いすんなっ」


 本日二度目の空手チョップを構えた。


 早百合部長も、内峰も、楽しそうに笑っていた。

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