楽しそうな君の顔

「さんきゅ、すっごい面白かったよ」

 三日ほど経ったあと。原口は瑠璃に本を返してくれた。瑠璃は驚いた。

「え、もう読み終わったの? 早くない?」

 確かに薄い文庫本で、中身も難しくないものだけどそれだって、五分×三日……?

 不思議だったが、単純にそうではなかったようだ。

「いや、読んでみたら面白くてさ。つい家でも読んじゃったんだよ」

 なるほど。それなら確かに三日でも読み切れるだろう。

「そうなんだ! 面白かったなら私も嬉しいな」

 瑠璃の声も明るくなった。おすすめを面白い、と言ってもらえたら当たり前に嬉しい。

 貸した本は小説の短編集。どれも明るくてわかりやすいストーリーで、瑠璃も一時期よく読んでいたものだ。

「本って面白いんだな。なんか難しいイメージが勝手にあって、あんまり自分から読もうと思わなかったんだけど、これは全然違ったよ。わくわくして、ついついページをめくりたくなるんだ」

 原口の嬉しそうな顔が言っていた。本当に、心からこの本を楽しんでくれたと。

「そうだよね、わくわくしちゃう気持ちも、ついページをめくっちゃう気持ちもわかるなぁ」

 自分の好きなこと。原口も同じように感じてくれたのだ。瑠璃はつい、力強く言っていた。

「相田がいつも、楽しそうにしてる気持ちもなんとなくわかった気がするよ」

 微笑んで言ってくれたことにはびっくりしてしまったけれど。

 いつも、楽しそうに?

「え?」

 不思議そうな声が出た。その瑠璃に原口は、はっとしたような顔をする。

「い、いや、よく休み時間とか、本、読んでるだろ。そのときすごく楽しそうだったから……」

「……えっ」

 同じことを言ってしまったが、今度のほうが驚いたのだ。

 よく休み時間に本を読んでいるのは、その通り。

 そのときの様子。見られていたというのか……?

 急に恥ずかしくなってしまう。

「そ、そうかな……」

 もじもじ言ってしまった瑠璃に、原口も同じような様子になったのだ。

「あ、わ、悪い……なんかこそこそ見てたみたいだったな……」

 そんな様子で、見ていたなんて言われたら。

 なんだか妙なことを考えてしまいそうで、瑠璃は焦った。

「ううん! き、気にしないよ。えっと、じゃあ次の本はどうしよっか?」

 あからさまに話題を変えたようだったけれど、原口はどう思っただろう。とりあえず返事をしてくれた。

「毎回、相田のを借りるのは悪いから図書室で借りたいんだけど。良かったら、またおすすめしてくれないかな。頼ってばっかで悪いけど……」

 図書室で。確かに図書室だったらたくさんあるし、好きなものも選びやすいだろう。

「そうだね! それがいいね!」

「じゃ、今日の放課後、ヒマ? 俺、部活が休みなんだけど……」

 そのように。放課後、図書室に行くことになって、本を選んだ。

 それから時々、図書室で一緒に本を選ぶようになったのである。

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