君を想う一ページ

白妙 スイ@書籍&電子書籍発刊!

朝読時間と意外なお願い

 新しい本のページをぱらぱらめくる。見ているだけで瑠璃(るり)はわくわくしてきた。

 明日から学校で『朝読時間』がはじまる。

 朝の五分間、好きな本が読める。本好きの瑠璃は張り切って、新しい本を手に入れてしまったのだ。

「なぁ、相田(あいだ)」

 そこへふと、瑠璃の名字が呼ばれた。どきっとして、視線をあげる。

 急に声をかけられたのもそうだし、呼んできた声の持ち主。わからないはずがない。

「は、原口(はらぐち)くん? なに?」

 ちょっとあわあわしつつも返事をする。そこにいたのは思った通り原口……フルネームは原口 昴(すばる)。彼が微笑を浮かべていた。

 顔を見るだけでもドキドキするのに、おまけに今は自分の席に来て、更には呼んでくれたのだ。ドキドキして仕方がないだろう。

 原口は顔も良ければテニス部で運動神経抜群、成績もいい。

 学校でもトップクラスの人気があり……瑠璃もその例にたがわず、彼に憧れている一人だ。

「その本、新しいやつ?」

 聞かれて、瑠璃は「うん」と答える。

「厚い本だけど、難しくないか?」

「ううん、確かに言葉遣いとか難しいなって思うところはあるんだけど、お話が面白いから、あんまり気にならないよ」

 話しかけられた理由はわからないけれど、そう答えた。話ができるのは嬉しい。

「そうか。実は相田に頼みがあるんだけどさ」

 頼み?

 瑠璃はきょとんとしてしまった。

 なんだろう?

「明日から『朝読』がはじまるじゃん」

「うん、そうだね」

 瑠璃はシンプルに肯定する。だがそのあとのことには驚いてしまった。

「でも実はさ、俺、あんまり本とか読まないから詳しくないんだ。良かったらなにかおすすめを教えてくんないかな」

 本に詳しくないのはなにもおかしくない、けれど、そのあと。

 おすすめ!?

 私がってことだよね、私が原口くんに本をおすすめ?

 瑠璃はわかりきったことを自分の中で繰り返してしまった。

 そんな瑠璃をどう思ったのか、原口はちょっときまり悪そうに、頭に手をやった。短い黒髪がくしゃっとする。

「いきなり『毎朝、本を読む時間』なんて言われてさ、困っちまったんだ」

 その様子はなんだか普段教室で見るものとは違っていて、瑠璃はどきっとした。

 ちょっと違う一面を見たくらいで単純すぎると思うけれど、そんな場合ではない。

 離れたところから見ているだけだった原口が、自分に。なんて幸運。

「そ、そうだよね。あんまり読書しないと悩んじゃうかもね」

 瑠璃はまず、そう言った。確かになじみがないなら、どの本を選んだらいいのか迷ってしまうだろう。

「いいよ。どんなのがいい? 現代ものとかファンタジーとか、明るいのとか暗いのとか……」

 作家なんかは詳しくないなら、言われても困るだろうと思ったので、ちょっとぼんやりとした選択肢を出してみた。

「うーん、あんまり長くないやつで、明るい話、かな……」

 原口は少し考えた様子で、そう言った。

 それならなにかは探せるだろう。

 瑠璃は思って「わかった」と答える。

「じゃあ、明日の朝、渡せばいいかなぁ」

「え、借りていいってことか?」

 瑠璃の言葉に、原口は驚いたような顔をした。でも瑠璃は単純に頷く。

「うん、いいよ! 図書室で借りてもいいけど、明日までに見つけて借りるのは難しいだろうから、明日はとりあえず……。うち、いっぱいあるから一冊くらい貸せるよ」

 本にあまり触れていないのなら、図書室で借りるのがいいだろう。いきなり買うのはハードルが高い。安くないのだから。

 だから、明日はとりあえず、ということだ。

「いっぱいあるのか……ほんとに読書家なんだなぁ」

 瑠璃の提案に、原口は感心したような声を出した。瑠璃は褒められて、ちょっと嬉しくなってしまう。

「そんなことないよ。でも子供の頃から好きだから……」

「それがすごいんだよ。昔から続けてるってことだろ」

 謙遜したのに原口はもうひとつ褒めてくれた。瑠璃を認めてくれるようなそれに、余計くすぐったくなる。

「じゃ、じゃあ、明日の朝、渡すね!」

 そのような約束。

 やがて次の授業がはじまったのだけど、瑠璃の心はぽかぽかしていた。

 原口と話ができた。

 おまけに二人で、だ。

 更に、本を紹介して貸すなんて約束までできてしまった。

 どの本を貸そう、読みやすくて、明るい話のもの……。

 既に色々考えはじめて、瑠璃はもっと楽しくなってきてしまった。

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