第43話言葉は大事だよ

アンさんは私達の元へと来ると私達を連れてギルドへと向かった。

ギルドマスターはセイラさん達と場の収拾へと残ってくれた。


許可は貰っているらしく、アンさんはギルドマスターの部屋へと案内してくれた。

ここが一番安全だと力なく笑うアンさんにちょっと申し訳なく感じた。


人目がない場所にホッと一息吐き、安心したのか知らない内に強ばっていたらしい体から力が抜け、その場に座り込んでしまった。

慌ててジーンがソファに座らせてくれたけど、私を座らせた瞬間アンさんに引っ張られ椅子に座らされていた。


アンさん、強い。


「ヒヨリ、大丈夫か?」


アンさんに傷の手当てをされながら、自分より私の心配をするジーンに呆れと共に少し不安を感じた。


「私は大丈夫。ジーンは私より自分の心配をして!私を庇ったせいで怪我して…」

「俺は大丈夫だ、鍛えてるからな」

「大丈夫じゃないですよ!ヒヨリちゃんを守ったのは褒めて差し上げますが、自分を蔑ろにするのは叱責対象です!…貴方を心配する人達がいる事を忘れないで下さい。貴方に何かあったら悲しむ人がいるんですから」


アンさんは不安そうにギュッと眉をハの字にさせて俯いた。

いつも強気なアンさんの貴重な姿に、さすがにジーンもたじろいだ。

私はそんなジーンを見ながらアンさんに乗るように言葉を重ねた。


「そうだよ!ジーンに何かあったら私はどうするの?まだまだ1人じゃ生きて行けないんだから」

「いや、その時はギルマスやアンが…」

「ジーン!!」

「ジーンさん!!」


なんでもない事のように自分がいなくなってからの事を喋ろうとするジーンに私とアンさんは怒った。

ジーンは何故怒られているのか分からないらしく、困惑した顔をしていた。


「ジーンはアンさんの話を聞いてなかったの!?」

「そうですよ!確かにジーンさんが何かあればギルマスも当然私も動きますが、そうじゃないでしょう!?」

「私はジーンに何かあれば心配するし悲しいよ!!ジーンは違うの!?私に何かあっても…死んでもジーンは元の生活に戻るだけだと思ってるの?」

「違うッ!!」


咄嗟に否定するジーンは、ハッとなって目を彷徨わせてから俯いた。


「…すまない。分かってはいるんだが、こういう時どうしていいのか分からないんだ。心配とかするのもされるのも慣れてなくて…」


私はなんとか力を込め、ソファから降りてジーンに抱き付いた。


「じゃあ、これから慣れて。私はジーンから離れるつもりないし、心配させちゃうし、心配もする。アンさんだって、ギルドマスターもランちゃんも、セイラさんだってジーンを心配してた。きっとまだ私の知らないジーンの知り合いだって心配してくれる。ねぇ、ジーン。覚えておいて。貴方は確かに愛されているのだって」


言葉にしなくてもジーンは感じ取っていたかもしれない。

でも言葉にしないと実感出来ない事もある。

本当に正しいのか分からない。

私の中でもやもやと何かが渦巻いている。

不安?

悲しみ?

とにかく今は届かなくてもいい。

ずっと言い続けよう。


届くまでずっと、ずっと。

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ひよこ日和〜異世界をチートで生き延びます〜 すぐり @you310

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