第22話翼パタパタ
私は彼?彼女?に向かって挨拶をした。
「ヒヨリっていいます。よろしくお願いします。えっとお兄…オネエさん?」
「あらあら、困らせちゃったわね。どちらでもいいんだけど、そうね、ランちゃんって呼んでくれたら嬉しいわ」
「…ランちゃん?」
「っ…可愛い!さぁさ、とりあえず中に入りましょうか」
「はぁい!」
中に入ると、可愛らしくも機能的で絶妙なバランスの取れた家具の配置がされていた部屋だった。
「わぁー」
私が感嘆の声を出すとランちゃんにくすくすと笑われてしまった。
「お気に召してくれたようで嬉しいわ。で、早速で悪いのだけど、その、ヒヨリちゃんには嫌なことかもしれないけど、…傷の場所を教えてくれるかしら?」
傷と言われてびくりとした。
折られたこと、殴られたこと、踏まれたことなどを思い出し、身体が震えた。
でもジーンは言った。
治してくれる人のところに連れてくって。
多分それがランちゃんなんだ。
私はそっとポンチョを脱ぐと背を見せた。
息を呑む音が聞こえた。
「っ、…痛かったでしょう?すぐワタシが治してあげるからね?痛みがかなりあるかもしれないけれど我慢出来るかしら?」
私が静かに頷くとランちゃんは覚悟を決めたように私の背を触った。
まずは歪みを治すためなのだろう。
グッと翼に力を入れられ、痛み止めを飲んでるのに痛い。
でもそれは治しているからと分かっているからグッと食いしばり我慢した。
ランちゃんはぶつぶつと何か呟きながら翼に触れていた。
何分?
何時間?
痛みで時間の感覚がなくてぼんやりしていたら、ランちゃんに抱き抱えられていた。
「ごめんなさいね。大分痛めさせちゃったわ。よく我慢出来たわね、偉いわ。翼はもう大丈夫よ。ちょっとベッドで休んでいるといいわ。あら、汗もかいちゃってるわね。今お湯を持ってくるから着替えちゃいましょう」
そう言うとランちゃんは別室に行ってしまった。
私はうつ伏せに寝かせており、翼に圧迫感はない。
そうっと翼を動かしてみると、パタパタと最初の頃のように動いた。
痛みも全然なく動く翼が嬉しくて、何度もパタパタと動かし、いつの間にか私は泣いていた。
怖かった。
痛かった。
辛かった。
でも、もう安全なのだと思うと安心して涙が止まらなかった。
戻ってきたランちゃんは驚いたように私を見たけど、分かったのか優しく私の頭を撫でてくれた。
落ち着いた頃にランちゃんは冗談めかしに言った。
「さぁ、ワタシに身体を拭かれるのと自分で拭くのとどちらがいいかしら?」
「自分でやるわ!」
「うふふ」
さすがにオネエさんでも恥ずかしい。
いや、女性相手でも恥ずかしいから一緒か。
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