第10話秘密のお揃い

まじまじと見る私に不快を感じたのか眉を顰めた。

ジロジロ見すぎて気を悪くさせてしまったかも知れない。

しかし、ジーンさんが言ったのはそんなことではなかった。


「気持ち悪いだろ?黒い目だなんて」

「え?」

「黒髪も珍しいが、黒目なんて誰も居ない。だからいつも目深にフードを被っているんだ。獣族より余程忌避される」


ジーンさんは自嘲気味に言った言葉に私は驚いた。

神様達は何も言ってなかった。

けれど確かに黒い目の人に会ってない。

黒髪も珍しいと言っていたが、ニヤやミヤのように種族的なものもあるだろう。

でもそんな彼らも目は黒くなかった。


何か言わなければど思う。

しかし何も知らない私が何を言えるというのだろうか?

フードを被り直しながらジーンさんは腰を浮かした。


「悪い。近くに居るのも恐ろしいだろう。お前を街に連れて行ってやりたかったが…すまないな」


そう言って踵をかえそうとするジーンさんのマントを私は咄嗟に握った。

握った手は僅かに震えているが、それはジーンさんの所為じゃない。


「怖くないです!とても綺麗な目だと思います」

「いや、しかし」

「私が!…私が怖いのはきっと…大人の人族。それも男の人だと思います」


そうなのだ。

私が怖いのは男の人族。

あれだけ暴力を振るわれ、それを見せつけられて怖がるなと言う方がおかしい。

所謂トラウマというやつだ。


「ならば尚更」

「でも、街に行けばそんな人、沢山居ます。だから…私は貴方がいい!こんな私を心配して、嫌なのにフードまで取って見せてくれた。貴方だから私は信用したい!黒目だからだとか私は気にしない。私は貴方が怖い。でもそれは大人の、男の人族だから。それでも、そんな私でもいいのなら、一緒に居てくれませんか?…もう、1人は嫌なの」


身体につられてなのか、限界だったのか、私はぼろぼろと涙を流した。

反応が怖い。


「…ヒヨリ。お前がいいのなら、望んでくれるのなら、俺は側に居よう。怖いと言うのなら触れない。お前が恐れるものから守ろう。だからヒヨリ、どうか泣かないでくれ」


そう言ってどうすればいいのか、オロオロと手を出したり引っ込めたりするジーンさんに私は笑いが込み上げてきた。

ふふふ、と思わず笑うとジーンさんはホッとしたらしく、私に合わせてしゃがんだ。


「ああ、お前は笑ってる方がいい」


こんな怪しい幼女にそんなこと言うなんて、なんてタラシなんだ!

思わず赤面した顔を見られないように咄嗟に顔を逸らした。


「ど、どうした?やはり怖いのか?」

「ち、違います!大丈夫!」


わたわたとする私に合わせて背中ももぞりと動いて痛んだ。

痛み止めを飲んでるからそこまで痛くなくて忘れてたけど、私は気付いた。

ジーンさんは自分の秘密を教えてくれたのに、私は見せないとか不公平ではないかと。

私は思い切ってポンチョを脱いだ。


「ヒ、ヒヨリ!?」


ジーンさんは驚いていたが、気にせず背を向けた。


「あのね、私は鳥の獣族なの。ジーンさんは…気持ち悪い?」


私の小さな翼は何度も殴られたせいで酷く歪んでる。

痛み止めを飲まなきゃ痛みで動けないくらいボロボロだ。

ジーンさんが息を飲んだのが分かった。

それでもジーンさんは何でもないかのように言う。


「そんなことあるものか。…翼は俺の知り合いに回復魔法が得意な奴に見てもらおう。ちょっと変わった奴だが、可愛いものが好きだしいい奴だ。絶対ヒヨリを気にいるな。あぁ、安心してくれ。そいつも獣族なんだ」

「そうなんですね」


ジーンさんの言葉に安心するとジーンさんは何かに気付いたらしく私をじっと見た。


「そういえばヒヨリは髪も目も翼も全て黄色いんだな、珍しい」

「私って珍しいの?」

「そうだな。色が揃っているのは俺は見たことないな。髪と目の色が違うのが普通だ」

「じゃあ、ジーンさんとお揃いですね!」

「え?…あぁ、そうだな。お揃いだ」


ジーンさんは嬉しそうにくすくす笑った。

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