第7話怖いけど、それでも

短い足で走る。

そう大して距離を稼げるとは思っていない。

ただ奴らから少しでも離れる。

それだけが今、私が出来る唯一のことだ。


幸い私には先生が居る。

先生に探知してもらって出来るだけ人族を避けた。

冒険者に会う選択肢もあったけど、私は人族に会うのが怖い。

奴らにされたことが、見せつけられたことが頭に浮かぶ。

ぶるりと震える身体を抱きしめていたら、先生が人族と会わない道を選ぶ選択肢をくれた。


私は臆病者だ。

最低な人間だ。


あれだけ彼らに良くしてもらったのに、あれだけ彼らを守りたいと思ってたのに、最終的には自分だけ安全に逃げようとしてる。


それでも早く早く逃げるんだ。

少なくともニヤは分かっていたと思う。

ただ、私達はまだ小さく足が遅い。

皆で一緒に逃げればそれだけ皆一緒に捕まる確率が上がる。

そして多分私が怯えていたのも気付いてた。


だからニヤは言ったんだ。

バラバラに逃げよう、と。


人族から逃げてもいいように。


息が切れる。

足がもつれる。

何処かで騒がしく聞こえる。

誰かが捕まったのかも知れない。

人攫い達と冒険者達が戦っているのかも知れない。


怖い怖い怖い。

涙が溢れながらも精一杯走った。

そして、先生が安全だと言った場所で私は座り込んだ。

お水を飲んで、息を整えさせなきゃ。

あぁ、涙も止めないと。


ここに人族は居ない。

あぁでも、と思う。

私はこれからどうすればいいのだろう?

この世界で生きるには人族とも付き合わなくてはならなくて、それがどうしようにも怖いのだ。


「神様のバカー…」


小さく呟いた言葉は届くわけもなく、ただ風に飲まれた。


幾分か落ち着いたせいか、私はいつの間にか寝ていた。

はっ、と周りを見渡し耳を澄ませた。

風と虫、何かの生き物の声。

ほっとしたが、周りはもうすでに暗くなっていた。

私の姿も他の姿も闇に消えている。


まぁ、私は黄色いから目立つんだけどね。


そんな時、先生が反応した。


『ヒヨリ、誰かが居ます』


ヒュッと喉が鳴る。

え、追手!?

青褪める私に先生は安心するように言った。


『その人族は酷く弱っています。放っておけば死に至りますので大丈夫です』


え、ちょっと待って!?

今軽くそんな…。


『でもヒヨリは人族に会いたくないのでしょう?どのような者かも分からない他人です。気にすることはありません』


その通りだと思う私と、放っておけないと思う私が居た。

先生の言う通り知らない他人だし人族だ。

もしかしたら人攫いのような人族かも知れない。

自業自得で死にそうなのかも知れない。


でも私は…。


「…あの子達も救えない私だけど、それでも助けれるかも知れない人を見捨てたくない。自分勝手で欺瞞かも知れないけど、それでも私は後悔したくない。…先生、私をその人の所に連れてって」

『…分かりました』


なんとなく、先生の声が呆れたような、でもホッとしたようなそんなような声に聞こえた気がした。

そんなの気のせいかも知れないけど。


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