第5話最悪な時間を過ごす

「や、やめてよ!何でこんなことするの!?まだ小さいのよ!?」


あぁ、言ってしまった。

でも言わずにはいられなかった。

小さな子がボロボロにされてるのに何もせずにはいられなかった。

手足は震えてる。

顔色だってきっと良くない。

それでも私は黙っていられなかったのだ。


「小さいって?はははっ!お前の方が小さいだろうが。それに商品の、しかも獣族なんかどう扱おうが俺らの勝手だろ?」

「おい、こいつは見目がいいから殴るなよ?」

「と、とにかく殴らないで!しょ、商品なんでしょ!?子供なんてちょっとしたことで死んじゃうんだから!それでもいいの!?」

「うるせぇ、ガキが!!」


殴られないって言われたから少し調子に乗っちゃったかもしれない。

中には短気な奴も居るもので、私はそいつに突き飛ばされた。

そしてその際に、運が悪いことにポンチョが捲れて背中が見えてしまった。


「おい、こいつ獣族だぞ!」


騒つく中、私を突き飛ばした奴が私の小さな翼を掴むと力を入れた。


「っ、あああぁっ!!」


すごく痛くて、ついでにごきりと嫌な音もした。


「お、おい!なにしてんだ!?」

「あぁ?飛んで逃げないようにしただけだろ?傷も擦り傷だけだ。すぐ治るだろ」

「ったく、知らねーぞ」


私の翼は小さい。

見るからに飛べないことくらい分かる。

口答えしたからわざとやったのだろう。

そして、周りの皆も絶望の顔で私を見ていた。


あぁ、やってしまった。

私は却って奴らの脅しに加担してしまったのだ。

ボロボロになったニヤとミヤ、そして痛みに蹲っている私を見て、奴らは満足したのか牢屋を閉めて行ってしまった。


皆そろそろと近付いて申し訳なさげに気遣ってくれた。


「ごめんね、ごめんね!私何も出来なかった!」

「僕も助けに行けなかった!臆病者だ、ごめん!」

「ごめんなさい、痛いよね、ごめんなさい…」


皆泣きながら悔やんでいた。

私だって飛び出しておいて何も出来なかった。

悔しい。


ズキンズキンと痛む背を我慢しながら、私は鞄に手を入れた。

神様特製チート鞄は私以外が使うと普通の鞄になるよう設定してあった。

そのせいか、特に気にされず奪われずに済んだ。

私は鞄の中からすり鉢と薬草を取り出した。


「これ、擦って、ニヤとミヤ、に…」


やっぱり痛みに我慢出来なかった私は、それだけ言うと気を失ってしまった。


なんとか私の言うことを理解してくれた皆は、ニヤとミヤに擦った薬草を傷に塗ってくれたらしい。

ついでに私にも塗ってくれたらしいけど、おそらく骨折してるから効かないみたいだ。


それから数日、硬いパンしか出されないからお水を出したり木の実を出したりして飢えを凌いだ。

だけど、毎日誰かが目の前で甚振られたり、私もわざと翼を殴られたりした。


私には分かる。


皆もう心も身体も限界だ。

そして恐れてた日が来た。


「よぅガキ共。良かったなぁ、やっと客が引き取りに来るぜ」


身体が震える。

これからのことを思うと、これまでのことを思うと…私は恐怖でいっぱいになった。


でもまだ諦めてないものが居た。

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