第5話下駄箱

遂に三年生の最終登校日が来てしまった。卒業式の在校生の参加は認められておらず在校生が学校の近くにいただけでも指導が入るので実質僕が先輩に会う最後の日である、しかし最終日だからといって自分達は普通の授業日であるので卒業生に会いに行ける時間なんてものはない。唯一彼女を見ることができるのは卒業式の予行練習時の移動に自分達の教室の前を通るときである。僕はそのチャンスを待ち続けた。

 授業も終盤に差し掛かり諦めかけていたところ足音が聞こえると同時に卒業生が教室の隣を通過していった。人混みの中一人だけ目が合い微笑んでくれる人がいた。僕の心は射抜かれその後の授業も上の空であった。ただもう会えなくなると思うと悲しくなったり複雑な心境であった。

 そんなこんなですべての授業が終わり下駄箱にいき自分のところの扉を開けるとメモ用紙のような小さな紙切れが置いてあった。見ると「駅の第三待合室に来てくれると嬉しいな:と書かれていた。僕は靴を履き替えホームの一番端に作られた待合室目指して無我夢中で走った。今まで見たことないような速さで風景が流れていく。駅に着くと突然乱暴な警告音とともに行く手を阻まれた。

「もう一度タッチしてください。」

一秒でも早く到着できるために走りながらICカードをタッチしたことによって処理が間に合わずゲートがしまったようだ。こんなときは普通一旦後ろに下がり表示が消えるまでの数秒待ってカードをタッチすれば普通に開くのだがその数秒が永遠に終わらない。やっと改札機の表示が消え赤かったリーダーも青に変わった。確実に手順をこなしホームに降りた。目的地は端っこ。僕はまた走り出そうとした。しかしここで駅員に「お客様、危険ですから走らないでください。」と注意を受けた。走ればもう一瞬で着くのに歩いて行くことになりこれもまた遠く感じる。注意されないようなスピードでまるで競歩を行っているような感じだ。そしてそこは進行方向とは逆の方向に入口が設けてありこちらからは様子が確認できない。遂に手紙に書かれていた場所の前にたどり着くことができた。いつもなら白く薄っぺらく窓ぐらいつけてやれよと思うような軽薄な扉も今日はなんだか大きく重厚な城門のような気がする。

 震える手でドアノブをひねり扉を押すとスマホに目を向けている女性がいる。僕が部屋に入ってきた音に気づいたのか顔はすぐにこちらに向いた。

その女性は紛れもなく僕が話しかけられず一人寝る前に悩みもう会えなくなるのかと思っていた先輩その人である。なにか声を掛けようとしたその時だった。

―――!!

彼女は両手を広げ僕の胸元に飛び込み優しく包み込んだ。僕はもうわけが分からず突っ立っていると突然彼女は「ごめんね、ごめんね」と言いながら声を出して泣き始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クール先輩と話しかけられない僕 楽園ロング @Rakuen-Long

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ