第2話 岩融(いわおとし)

 一騎当千いっきとうせん

 その言葉が最もふさわしい男、弁慶。

 

 そして、無謀にもそんな男を死合いの初戦に選んだ類稀たぐいまれなる戦の天才。

 その名は義経。


 二人を含めた義経の軍は、2月の寒空の下、ここ、一ノ谷で奇襲を企てていた。


「弁慶。この崖を下りたいが、木々が邪魔だ。行けるか?」

 元服げんぷくを終えて、牛若丸は義経と名乗るようになり、凛々しい顔立ちになって数年。

 


「任されたし。我の愛刀、岩融いわおとしは岩をもけたかのように軽々と切る。こんな木々なんぞ、我の一振りの風で軽々行けるわ」

「では、頼んだ」


「すーーーーーーーーっ」

 呼吸を吐きながら、岩融を構えながら、神経を集中させる。


「ぜいやあああああああああっ」

 崖の上から斜面に沿わせて、岩融を一振りする。

 空気が凝縮され、その振った剣先に鋭い風がかまいたちとなって斬撃が飛んでいく。

 すると、木々が根元から切れていき、大きな音を立てながら倒れていく。

「よし、皆の者、私に続けぇえええええっ」

「おおおおおおっ」

 義経の軍はその崖を馬で降りていく。

 

 敵陣からしてみれば、馬たちが滑り落ちたように見えたかもしれない。

 しかし、義経たちは落ちるとは対照的に、一ノ谷の戦いによって、名声を天にも昇り詰めるくらいの勢いで広がっていく。

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