第20話

海水浴を終えて、六人は岐路についた。遊び疲れた氷は電車のなかで船を漕いでいた。そして、いつの間にか結城の肩にもたれかかる。塩の香りに混ざって、彼女のシャンプーの香りが香った。その香りに、結城はドキドキする。


今日はずっと氷にドキドキされぱなしだった。


いつもとは違う場所に来ただけなのに、交際の予約をしただけなのに、氷の存在が気になって仕方がない。こういう感情にどういう名前をつけなければならないのかを知らないほどに子供ではないが、結城はロリコンではない。


今の氷には、心惹かれないはずなのだ。


あくまで、結城が心惹かれるのは未来の氷なのである。


今の氷にどきどきした今日の方がいろいろとおかしいのだ。


「今日は楽しかったですね」


 結城の内心を見透かしたように、里奈は尋ねる。


「兄さんたちも受験がはじまっちゃいますし。今後は、こういう機会ってどんどんすくなくなるんでしょうね」


 里奈の言葉に、結城ははっとする。


 たしかに、自分たちは受験生で今後は遊べる機会はもっと少なくなってしまうだろう。それでも、それで氷と会えなくなるのは寂しい。


「機会ぐらいは、いくらでも作るさ」


 結城はそう答えた。


 隣で眠る氷に誓うように。


「……約束ですよ」


 里奈は寂しそうにつぶやいた。


「こういうふうに遊ぶ機会がなくなったら、私も悲しいんですからね」


 里奈には、双子の兄がいる。


 家ではいつも騒がしいだろうが、やはり子供の一年の差は大きい。ましてや、里奈は女の子である。稀に兄たちとの間に疎外感を感じることもあるのだと言う。だから、今回のような遊びの機械はぜひとも続けてほしいとのことだった。


「夏休みが終わったら文化祭がありますね。氷ちゃんのところも似たようなお祭りがあるかもしれないですし、聞いてみましょうか?秋が楽しみですね。ふふっ、去年は未来が全然楽しみじゃなかったのに、なんか不思議です」


 それは結城も同じだった。

 未来が陰鬱だったというわけではないが、今のように明確な楽しみがない生活ではあった。それが氷と共にいるだけでこんなにも違った。


「なんのお話をしてるんですか?」


 氷が目を覚ますと、秋についての話をしていることを説明した。氷は「それなら、私の学校はバザーをやるんです」と言った。


「私たちも出店を作るんですけど、結城さんたちもぜひいらっしゃってください」


 氷の言葉に、結城はもちろんと答えた。

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