第19話

 バレーボールは三対三で行われることになり、里奈率いる兄弟チームと氷と結城秀樹のチームに分かれてゲームを開始する。ゲームと言っても誰かが得点を数えているわけでもない、ボールの打ち合いである。それでも氷や里奈は楽しそうにボールを打ち合っている。まれに里奈を見つめる男の、双子の兄弟が豪速球を投げつけるというハプニングはあってが和やかにゲームは終わった。


「たくさん動いたら、お腹が減ったね」


 里奈がお腹を押さえる。


「今回は俺と秀紀が弁当を用意したぞ」


 放っておくと、氷が毎回弁当をつくりたがるので彼女の負担を減らすためにも「みんなで遊ぶ時には食料調達は持ち回り制」としたのである。結城はおにぎりとウィンナー卵焼きと言った簡単なおかずを作っていた。秀紀は焼きそばを作ってきて、昼食は炭水化物ばかりになったがそれに抗議するものはいなかった。皆動いたせいで、腹が減っていたのである。


 あっという間に弁当を食べ終わると帰る時間までそれぞれ好きに海で過ごすことになった。里奈は双子の兄弟と共に泳ぎ、秀紀もそれに混ざっている。結城と氷は、砂浜で貝殻を採取していた。氷が自由研究で綺麗な貝殻を使いたい、と言ったからである。


「貝殻にマニキュアで色をぬって、作品を作ろうと思うんです」


 幼い工作に氷は胸を躍らせる。


 だが、砂浜では綺麗な貝殻はなかなか見つからない。


「どうして、綺麗な貝殻は落ちていないんでしょうか」


「波で削られるからじゃないのか?」


「波は水なのに、どうしてものを削れるんですか?」


 氷の疑問に、結城はすぐに答えられなかった。


 すると氷は笑顔になる。


「じゃあ、自由研究でそれもしらべて私が結城さんに教えてあげます。工作だけをつくるよりも、もっと有意義な自由研究になると思いますし」


 氷の言葉に、結城は恥ずかしくなる。


 なんのために自分は勉強をしてきたのか、分からなくなったのだ。少なくとも、氷が何か疑問に持ったら答えられるような自分でありたいと思った。そのために勉強をしたいと思った。結城は、いままで明確に目標をもって勉強をしたことはなかった。だが、結城は今初めて勉強の目標というものをもった。


 氷の疑問に答えるために、賢くなりたい。


「きゃあ!」


 急にやってきた潮に、氷が足を取られる。尻もちをついた氷に、結城が手を差し伸べると二人そろって潮をかぶってしまった。水着姿の氷がびっしょりと濡れて、不思議な淫靡さを醸し出していた。それを見て、結城の頬が赤くなる。ついで氷の頬も赤くなる。


「つっ――」


 今のは結城が先だった。


 結城が先にドキドキして、それが氷に伝わった。


「俺はロリコンじゃねぇ!」


 結城は、思いっきり叫んだ。

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