第18話

 交際の予約ということをした、氷と結城だったが進展することない。そもそも歳の差があるし、結城は受験生だ。最近では塾に通い始めたこともあり、氷との接点も薄れていた。氷は携帯を持っていないために、普段の連絡もなかなか取れなかった。そんななかで夏休みとなり、里奈より海に行こうという提案がなされた。


「本当はキャンプとかもいいと思ったんだけど、受験生が多いしね。だったら、一日だけ大いに遊んだほうが能率もあがりますよね」

 里奈のその言葉により、夏休みに海で遊ぶことが決定した。

 夏の海は人が多く、いたるところに出店がでていた。今回は弁当持参なのでお世話になる機会はなさそうであったがうまそうな匂いは食欲がそそる。


「結城さん、お久しぶりです」


 氷は水着の上にTシャツを着ていた。


 海だから不自然というほどの恰好ではないが、水にぬれた荷物になるのにと結城は少し不思議に思った。結城の視線に気が付いた氷は、急に顔を赤くする。


「結城さんの前で水着になるのが……なんだかはずかしくて」


 氷の言葉に、結城まで少し赤くなってしまう。


 ロリコンではないというのに、氷の言動に心が激しく動く。なんなのだろうか、これは。自分はロリコンではないというのに、世界が自分をロリコンにしようとしているのだろうか。


「結城先輩。ビーチボールもってきたので、みんなでバレーしましょうよ」


 里奈の言葉に、結城は助かったと思った。


 このままではロリコンではないのに、変な波にのまれてしまいそうだった。ところが、氷はどこかむっとした様子で結城の後ろを歩いていた。結城は、それを不思議に思う。


「もしかして、氷ちゃん。私のナイスボディーにやいちゃった?」


 里奈は大人びたポーズを決めるが、いうほど里奈も発達しているわけではない。ただし、年相応には育っていて、双子の兄弟が氷と同じように彼女にもTシャツを着せていた。


「嫉妬なんてしてません!ただ、結城さんがデレデレしているような気がして」


 氷の言葉に、結城は驚く。


「デレデレなんてしてないぞ!」

「私の方が見ないのに、里奈さんのほうは見てます」


 それは、氷が照れるから一緒に照れてしまって気恥ずかしくなってしまうのだ。一方で里奈ははつらつとしていて、見ていても恥ずかしくならない。上にTシャツを着ているせいなのかもしれないが。


「じゃあ、氷ちゃんもTシャツを脱いじゃえ。私もぬぎまーす」


 里奈は自分と氷のTシャツを勢いよくまくり上げた。


 氷が隠していたのは、濃紺色のスクール水着だ。


 もしかしたら、これしかもっていなかったのかもしれない。恥ずかしそうに腕で水着を隠す姿に、結城はどぎまぎする。


「ロリコンじゃない……ロリコンじゃない」


「スクール水着か。うん、可愛いよ」


 そういう里奈の水着はピンク色のワンピースタイプのものだった。実は氷よりも露出度が低く、さらに着ている里奈が一際明るく振舞っているので氷のような伝染する恥ずかしさがない。結城が、安心して里奈を見ていられるゆえんである。


「あんまり見るな」


「そうだぞ」


 だが、後ろで愁と修平の双子が圧力をかけてきた。


 これで、結城が安心して見られる相手は秀紀だけになった。


「おー、すっごくどきどきしないな」


 秀紀を見ながら、結城は呟く。


「おまえ、何言ってるんだよ。いや、氷を見るとドキドキが伝染するんだ」

「ドキドキが伝染?」


 何を言っているのだ、と秀紀は結城に尋ねる。


「恥ずかしくないはずなんだなんだけど、氷が恥ずかしがるからこっちまで恥ずかしくなるんだよ」


 秀紀は、試しに氷の方をみた。


 氷は秀紀に見られても恥ずかしがらないので、秀紀は首をかしげる。


「気持ちがぜんぜんわからないな」


「うー、伝わればいいのに」


 結城はそういうが、そういうと秀紀が氷をじっくりみることになる。


 それはそれで腹立たしく、結城は複雑な思いを味わった。


「あと、里奈はセコムが怖い」


「ああ、セコム組が怖いよな」


 なぜか、そこだけは意見が一致した。


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