第17話
学校の近くには、比較的大きな公園がある。全国の公園がおそらくそうであるように、この公演にも桜が何本も植えられていた。出店こそ出ないが、近所のお花見スポットとなっており、土日ともなれば多数の花見客でにぎわうような場所であった。
そんな場所で、結城はぽつんと場所取りを任されていた。
秀紀や里奈、愁に修平たちは後からくるはずなのだが、いつまでたっても一向にやってくる気配がなかった。風がそよぐたびに、桜の花びらが舞い散っていく。幻想的な光景だが、物寂しくもある。一人で見ていると、なおさらに。
「おそいなー」
なんとなく嫌な予感はしていたが、それを顔に出さずにいた。声にも出さないのは、言ってしまったら現実になると思ったからである。
「あの、結城さん」
案の定、やってきたのは氷一人だった。
氷は桜色のワンピースを着ており、今まで見た中でも圧倒的に幼く見える装いをしていた。もしかしたら、今まではできる限り年かさに見えるようにと大人びた格好をしていたのかもしれない。
「里奈さんから、皆でお花見と聞いていたんですけど……」
「俺もそう聞いてたけど、あいつらがまだ到着してないんだ」
「そうですか」
氷はそう呟いて、失礼しますと言ってからブルーシートの上に座った。
「……」
「……」
二人の間に流れるのは、無言の時間である。互いに何を言ったらいいのか良いのか分からないような時間が流れていった。なんとも気まずい無言の空間を打ち破ったのは、氷だった。
「この間は、すみませんでした。結城さん」
頭を下げる、氷。
「この間は、私は結城さんの気持ちも考えずにいろいろ言ってしまって」
私やっぱり子供ですね、と無理やりに氷は笑う。
「結城さんの気持ちも考えずに、自分の気持ちばっかり。こんな子と結城さんがお付き合いだなんて、最初から可笑しな話だったんですよね」
氷は涙をぬぐいながら、言葉を発する。
結城は、何も言えずにその言葉を聞いていた。
「私、結城さんのことは諦めます。でも……その……」
次の言葉を言う前に、結城が口を開いた。
「俺は、ロリコンじゃない。だから、氷とは付き合言えない」
でも、と結城は言葉を続ける。
「氷のことを気になって仕方ない自分もいるんだ」
結城は、苦しそうな目で氷を見つめる。
「でも、俺はロリコンじゃない。だから……いつか互いに歳をとったらにしないか?」
結城は、そう言った。
「互いに、互いの年齢とか気にならなくなったら付き合おう。それまでは……その予約で」
結城の言葉に、氷は眼を見開く。
「予約って……いいんですか。結城さんは、私を予約している間は誰とも付き合えないんですよ」
氷の言葉に、結城は頷く。
「誰と付き合えばいいんだよ。そんな相手もいないのに」
「里奈さんとか」
「双子のセコムが怖いし、里奈は本当にただの後輩だよ。付き合うとかはありえない」
結城の言葉に、氷は首を振る。
「でも……でも……。やっぱり、結城さんにご迷惑を」
氷は未だに迷っていた。
「氷、俺の将来が欲しくないか」
結城は尋ねる。
「氷は息を飲んだ」
「ズルいです……そんなの欲しいに決まってます」
桜舞い散る中で、氷は結城の手を握った。
交際の予約という馬鹿気げたものを二人が結んだ日だった。
しばらくすると、花見の食料を買い込んだ秀紀や里奈、愁や修平たちがやってきた。全員が氷と結城の関係が修復されていることに驚きつつも、今だけを咲き誇る花を楽しんだ。
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