第16話

 進級すると、結城と氷が微妙な雰囲気になっていた。氷は放課後に結城を待っていなかったし、結城はそのことに関して何も言わなかった。里奈はなにかあったのだな、と二人の関係を察した。進展するということはありえない。ということは、後退したに違いない。


 里奈は、さっそく結城にかまをかけてみることにした。


「最近氷ちゃんの姿が見えませんね」


「ああ、俺も受験だしちょうどいいよ」


 そんなそっけない返事を返す、結城。


 絶対に本心ではない、と里奈は思った。結城は、氷のことを気に入っていた。付き合う付き合わないを別にすれば、妹分にしてもいいぐらいには気に入っていた。なのに、距離をおいたということは二人の間に何かがあったということだ。


「先輩、だったら私と付き合ってみませんか?」


 里奈の言葉に、結城は驚いていた。


 だがすぐに嫌そうな顔になる。


「冗談だろ」


「あっ、わかっちゃいますか?」


 里奈はぺろりと舌をだした。


「お前に手を出すと双子が怖いし、今のお前に兄弟以上に大切なものができるものか」


 結城の言葉は、当たっている。


 結城は賢い男だ。


 人が、何を一番大切にしているかを簡単に察してしまう。その利口さが、時頼愚かしい。今回だって、里奈が欲しいと言ってしまえば付き合えたのに。里奈が兄弟たちのほうを優先すると悟ったから、里奈の気持ちを優先した。


 自分の気持ちなどは優先しない男なのだ。


 氷のことだってそうだろう。


 氷は小学三年生だ。いくら情熱的で積極的であっても、そこは揺るぎがない事実である。そして、結城が好きなのも事実なのである。上手く誤魔化せばいいのに、と里奈は思う。相手は小学三年生なのだから、もっと気持ちをうまくごまかして側に置いてしまえばいいのに。そうして、互いに問題がない年頃になってから付き合ってしあえばいいのだ。


 聡いのに、阿呆な男なのである。


 あるいは理性の人のつもりでいるのか。


 結城がもっと理性的ならば、氷が告白してきた時点で追い返している。だが、それができていない時点で察するのもバカらしいというものである。


「先輩、今度皆の進級祝いにお花見をしましょう。氷ちゃんも呼んで」


 里奈はそう宣言した。

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