第14話

 氷の家は、マンションだった。父親と二人で生活していると言っていたが綺麗にかたづけられており、可愛らしい動物のぬいぐるみが飾られていた。


「ハリーポッターの一作目を借りてきたんです」


 氷と結城は、二人で並んで映画を見た。


 名作と名高い映画は面白く、少年が魔法学校に入学するところは何度見ているにも関わらずにワクワクした。だが、肝心の主人公がヘビ語を喋れる理由はよくわからなくて、とりあえずそういう設定だということで納得するしかなかった。


「結城さん……」


 映画が中盤に差し掛かったころ、ぴたりと氷が体をくっつけてきた。


 寒いのだろうかと思って、結城はエアコンのスイッチを探す。


「あの……寒いとかではなくて」


 恥ずかしそうに氷はもじもじとしていた。


 結城は、映画を一時停止する。


「トイレに行ってきていいぞ」


「いえ、そうでもないんです!」


 氷は、はずかしそうに首を振った。


「そろそろチューの一つでも思いまして」


 氷の言葉に、結城は驚いた。


「チューってキスのことだよな」


「そ……そうです!」


 途端に、氷は赤くなった。


 キスという言葉が、恥ずかしいらしい。


 そんな様子が可愛らしくって、けれども同時に恥ずかしくって、結城も顔を赤くした。


「そうです。デートも三回目で、ようやく二人っきりで、そういうことをするにはいいタイミングだと思いませんか」


 今までのデートの際には、秀紀たちが面白がってついてきていた。二人っきりになるのは、たしかに今回が初めてだ。


「氷、俺たちは付き合ってないだろ!」


「デートしてくれたのに、私のことが好きになってくれないんですか?」


 それとこれとは違う、と結城は言いたくなった。


「俺はロリコンじゃない!」


「私は、結城さんのことが好きなんです」


 話が平行線だ。


 どこまでいっても平行線の話というのは、どちらかが歩み寄らないと解決しない。


「いいか、氷。俺は、氷のことを嫌いじゃない」


 氷は結城にとって、嫌う理由がないような子だった。


 可愛いし、性格もいい。ちょっと可笑しなところもあるが、それも個性だと思える程度には愛着も持つようになった。


「でも、キスをするような関係じゃない」


 結城は、氷を引き離す。


 氷は、泣きそうになっていた。


「私は。そんな関係だと思ってたんです」


 子供のほうが、人との関係性を縮める距離が短いのかもしれない。

 結城は、キスという一種のゴールにはもっと距離が必要だと思っていた。なのに、氷はその距離は短いという。


「氷、俺はロリコンじゃないんだ」


 俺は、氷に言い聞かせる。


「じゃあ。私が小学生じゃなかったらキスしてくれるですか?」


 そうじゃない。


 そうじゃないんだ、と俺は氷に言い聞かせる。


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