第10話

「結城さん、お昼ごはんにお弁当を作ってきたんですよ」


 氷は結城にお弁当を差し出した。


 氷が手作りしたというお弁当は、桜でんぶがまぶされたおにぎりにから揚げ、卵焼きが入れられていた。結城のお弁当は少し大きめに作られている。


「お母さんと作ったのか?」


「いいえ、うち母親がいないんです。だから、お父さんと作りました」


 にっこり笑う、氷。


 結城は何とも複雑な気分になった。


 氷の父親は、娘が高校生のデートに持っていくお弁当を手伝ってどういう気分になったのだろうか。


「父親って、俺のことを知っているのか?」


「いいえ、友達と一緒に遊びに行くって言ってますから」


 父親にはよく食べる子なんです、と言いましたと氷は言った。父親はもしかしたら、同じ学年の男子と遊んでいると思って涙で枕を濡らしているかもしれない。そう考えると、結城は悪いことをしているような気分になった。


「お弁当、美味しいですか?」


 氷は、そう尋ねた。


「ああ、おいしいよ」


 結城が、そういうと氷は笑顔になった。


「よかった。唐揚げとかむずかしくて失敗したらどうしようと思ってたんです」


「揚げ物って危なくないのか」


「そこはお父さんが監督してくれましたから」


 てっきり出来合いのものを入れてくれたと思ったら、手作りだったらしい。驚きつつも、氷が頑張ってくれたことがくすぐったくてうれしかった。


「卵焼きも作ったのか?」


「はい。巻くのは得意なんですよ。こうやって、くるくるって」


 氷は、卵焼きを巻く様子を見せてくれる。


 結城は、微笑ましくなった。


 きっとこういうふうに父親と一緒にお弁当を作ってくれたのだろう。


「美味しかったけど……今度からお弁当は大丈夫だから。お父さんに申し訳なさ過ぎて」


「そうですか。私は、お弁当作るのが楽しかったからいいですけど」


 氷は不思議がるが、結城としてみれば氷の父親の申し訳なさ過ぎたのだ。


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