第8話
人だかりができていて、氷たちは先に進むことができなくなった。なにがあるのだろうかと背伸びをするとペンギンが散歩をしていた。そのペンギンの散歩を見るために人だかりができているらしい。
「ペンギンの散歩か」
秀紀が呟くが、隣にいる氷が首をかしげていた。
氷の身長では、人だかりのせいでペンギンが見えないらしい。結城は、氷を担いでやった。そうすると氷の身長でもペンギンを見ることができた。
「あーいいな」
里奈が、そう言った。
里奈も身長が高くないので、人ごみでなかなかペンギンが見えないらしい。
「私も、だっこ」
「よーし」
修平は両手を広げるが、さすがに愁に殴られた。
愁いわく、危ないとのことだった。
「そんなことをやって、二人で転んだら大迷惑だろう」
正論であったので、里奈と修平も大人しくいうことを聞いた。こういうときに、愁が長男であるとひどく納得してしまう。
「えへへへ」
氷は、嬉しそうだった。
ペンギンがそんなに好きなのだろうか、と結城は思った。
「結城さんが優しくてうれしいんです」
氷はそう言った。
「ペンギンさんも可愛いですけど」
えへへへ、と笑う氷はやはり可愛らしい。
結城はまずいなと思った。
氷のことを確実に可愛いと思い始めている。だが、それはあくまで子供や妹に対する感情である。恋人に向けるような感情ではない。
そこらへんの分別はあるはずだ。
「俺はロリコンじゃないし」
氷には申し訳ないが、俺はロリコンではない。
だから、氷が求めるような好意は向けられない。ただ、妹のように思ってくれというのならば、それは大丈夫なような気がしてしまう。なんだか、今日一日で氷と過ごすハードルが下がってしまったような気がした。友人たちについてきてもらったのが、まずかったのかもしれない。これでは集団で遊んでいたようなものだし。
「結城さん、次は二人で動物園に行きましょう!」
氷の笑顔を曇らせたくない。
そんな思いで、結城はいいぞと答えてしまった。
里奈は、結城たちのデートを後ろから見ていた。
もっとも彼らがデートをしているとは、周囲は思わないだろう。仲の良い兄弟に見えなくもない。里奈はそんな二人のデートを心穏やかに見ていた。
二人の雰囲気は穏やかで、微笑ましいものがあった。
「良い雰囲気とはいえないけど、おだやかでいいとは思うんだけど」
さすがに恋人同士にはなれないので、定期的に一緒に遊んであげればいいのにと里奈と思う。だが、結城はもうすぐ受験生だ。遊んでいる時間などなくなっていくのかもしれない。それに、氷がいたら恋人も作れないと考えているのかもしれない。
そしてなにより、氷は本気で結城のことが好きなようだ。
里奈は結城のどこがいいのだろうか、と考える。
結城はそれなりには優しいが、それは取っ付きやすさにはつながるが女の子にもてるような優しさではないような気がした。現に、里奈のことも友人と同じ付き合いをしている。結城の友人は、兄たちだというのに。
一方で、氷はものすごい美少女だ。
染められていないまっすぐな黒髪に、シャープな輪郭。大人っぽい造形なのに、目だけは大きくて子供っぽい。里奈は一目見た時から彼女を妹にしたいと思ったほどだった。
高校生の恋人を捕まえて、大人のようにふるまいたいのだろうか。だが、氷はそんな愚かな子供には思えない。水族館に誘うにしても、ちゃんと相手のチケットを用意していたし(結城はチケット代を支払ったようだが)おごってもらうという考えはないようだった。
「一体、なにがよかったのかしら」
里奈は再び「うーん」と悩んだ。
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